ごあいさつ

日本数学会・日本応用数理学会・統計関連学会連合 異分野異業種研究交流会 委員長
小薗 英雄
数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野・異業種研究交流会(以下交流会)は, 数学専攻,数理科学専攻等の博士後期課程学生をはじめとする数学・数理科学系の若手研究者と諸科学や産業界とのマッチングの場として,産官学協働のもと2014年から開催して参りました.その間,日本数学会のひとつの委員会であった社会連携協議会が,運営の主体を担ってきました.時代の変遷にともない,交流会は昨年度から新たに日本数学会,日本応用数理学会,統計関連学会連合の3学協会が協働で運営する「異分野異業種研究交流会」が担うこととなり,更に事務局は東北大学数理科学共創社会センターへと移行しました.この様に交流会の組織運営母体は新体制へと移行しましたが,数学・数理科学系の博士後期課程に在籍する若手研究者に,諸科学や産業への応用展開に数学の未だ見ぬ力を発見してもらうことや,産業界を含む様々な分野で活躍できる場の存在を認識してもらうことを主たる目的とするとは,これまでと同様です.また,高等学校,大学を含む教育・研究機関の教職員や企業関係者の方々にも,産業界における数学・数理科学やその知識を有する人材のニーズを把握してもらうことを役割とすることも変わりません. 2020年度から2022年度までの3回はコロナ禍のためにオンライン形式での開催を余儀なくされました. しかし,その様な中でも開催校のご尽力により,Zoom Webinar やbreak out room 等を駆使することによって,交流会を継続してまいりました. 昨年度は4年ぶりに中央大学を会場に対面形式の開催を実現し,32企業・研究所(参加企業・研究所18,オブザーバー14)の参加登録があり,企業からの参加者は59名,大学等研究・教育機関は39機関から91名(ポスター発表の学生51名含む),関係者19名,総勢169名の盛況ぶりでした.今年度はこの10月1日に新たに誕生した東京科学大学を会場に,昨年と同様に対面形式で実施いたします.開催にあたり多大なご協力を賜った東京科学大学・理学院数学系の方々には厚く御礼申し上げます.参加者の皆様におかれましは,交流会を楽しんで頂ければ幸いです.
日本数学会理事長
鎌田 聖一
日本数学会は、2020年より日本応用数理学会と共に、さらに2021年からは統計関連学会連合も加わり、三つの学会が共同で主催する異分野・異業種研究交流会を開催してまいりました。新型コロナウイルス感染防止の観点からしばらくオンラインでの実施も続きましたが、昨年度からは対面での実施が可能となり、今回もこのような形で交流会を開催できることを心より嬉しく思います。 数学・数理科学を専攻する若手研究者と産業界の方々が交流し、知識とアイデアを共有する貴重な場として、ぜひこの機会をご活用いただければ幸いです。 この交流会の実現には、多大なるご協力を賜りました企業・研究所、協賛及び協力機関、文部科学省、経済産業省、そして日本経済団体連合会の関係者の皆様に心より感謝申し上げます。また、開催校として大変ご尽力を賜りました東京科学大学の皆様、そして、事務局を設置していただいている東北大学数理科学共創社会センターの皆様にも、心からの御礼を申し上げます。 さらに、今回の開催にあたり、数理科学振興会からの多大なる助成金を頂きましたことに、深く感謝いたします。 最後に、この交流会が皆様にとって有意義なものとなりますよう、心から願っております。
日本応用数理学会 会長
速水 謙
昨年に続き、今年も対面で、そして初めてから10年目の異分野異業種研究交流会を日本数学会様、統計関連学会連合様とともに主催させていただくことを大変光栄に存じます。会場をご提供いただき、運営をお引き受けいただいた東京工業大学様、ご準備にご尽力してくださった皆様方、ご支援をいただいた皆様方に深く感謝申し上げます。 さて、日本応用数理学会は1990年に発足して以来、企業と大学の研究者の交流を大切にしてまいりました。例えば、専門分野に関する研究部会以外に、「産業における応用数理研究部会」や、「ものづくり企業に役に立つ応用数理手法の研究会」があります。また、他の研究部会や学会の運営も産学官のメンバーで協力して行っています。 その意味では本研究交流会は当学会にとっても親しみやすく、当学会に所属する学生、企業の研究者、そして大学の教員にとっても魅力的な場です。 今回参加される大学院の学生の皆様には、この研究交流会でご自分の研究を企業の方にアピールしていただくとともに、企業における数理研究とその可能性に接していただければ幸いです。一方で、企業の方には企業における数理研究の魅力やその可能性をアピールしていただき、良い交流の機会としていただければ幸いと存じます。
統計関連学会連合 理事長
宿久 洋
統計関連学会連合は統計学に深く関わる6学会(応用統計学会、日本計算機統計学会、日本計量生物学会、日本行動計量学会、日本統計学会、日本分類学会)が構成する組織体です。毎年1回、例年9月に共同で大会を開催し、Japanese Journal of Statistics and Data Science という学術雑誌をSpringer Natureから発行しています。 今年度も「数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野・異業種研究交流会2024」が盛大に開催できることを統計関連学会連合として大変喜ばしく思っています。 生成AIの隆盛などこれまでとは全く異なる速度で社会が変化しており、アカデミアでもその影響を大きく受けています。このような中で研究者の果たす役割もまた変化していくのではないでしょうか。もちろん、時代に流されない普遍的な英知を積み上げていくことはこれまで通り重要です。一方で、社会との関係を意識した取り組みもまた求められているのではないでしょうか。 数学・数理科学分野の若手研究者の方々にはこれまで以上に大きな期待がかかっています。また、活躍の場も益々広がっていくでしょう。自身の研究に立脚しながらも高い視座と広い視野をもつことが重要になっていくと思われます。そのためにも、このような交流の場が活用されることを期待しています。

来賓挨拶

文部科学省 研究振興局 基礎・基盤研究課長
中澤 恵太 氏
『数学・数理科学への期待と重要課題 -最近の話題から-』 「数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野異業種研究交流会2024」の開催にあたり、一言ご挨拶申し上げます。 数学・数理科学は、社会・産業・文化・自然・環境・生命などあらゆる現象の「根本原理を解明し、重要な変化の兆しを予測」できる可能性を持つ学問です。より良い社会、Society 5.0 実現に対して重要なイニシアティブを果たしていけると考えています。また、これら現象の理解とこれによる新産業や社会変革を伴うイノベーションの創出が相互に影響を及ぼし発展していくことで、学問の体系的な進展と新たな価値を創造していくことが期待されています。 本交流会は、数学専攻の博士課程学生をはじめとする若手研究者と、異分野の研究者や産業界との橋渡しを行い、産学協働のためのきっかけや基盤をつくることを目的としたものと承知しています。数学・数理科学が他の分野と融合し発展していくという観点からも、本交流会は大変意義深いお取組みであると考えています。開催にご尽力いただいた多くの皆さまに敬意を表します。 本日、私からは、数学・数理科学への期待と重要課題について、国の視点で紹介をさせて頂きます。 本日は交流会の開催、誠におめでとうございます。

基調講演概要

ダイキン工業株式会社,テクノロジー・イノベーションセンター,デジタルエンジニアリンググループ,グループリーダー
高根沢 悟 氏
<タイトル>産業競争力の源泉である数学・数理科学および数学生について
<アブストラクト>日本のものづくりは擦り合わせ技術を強みとしてきた。擦り合わせ技術は現象論に基づいた具体的な修正行為であり、抽象性の高い原理に基づいた発明が産まれにくい。大まかに言って欧米は日本のものづくりと逆で、原理に基づいた公理論的発明を得意としており、極めて数学的であるように思う。 このような日本のものづくりの強みは概ね2000年頃まで如何なく発揮されたと思うが、その後は日本の弱みが目立ち始め、欧米の原理に基づき発想する強みが大いに発揮されてきたと感じる。デジタル技術の革新により勝ちパターンが変化し、原理から問い直して変更することが可能になったためと思われる。 このような状況で最も危惧されることは、数学の知識が何の役に立つのか?という卑近な実用性で数学生を評価してしまうことである。ほとんどの場合、数学研究で身に着けた知識がそのまま企業で役に立つわけではない。しかしながら数学の訓練を受けた者は、原理を考え抜く特別な能力を持っている。 産業界をとりまく環境が目まぐるしく変化する中で、大小さまざまなレベルで原理からの問い直しが必要となっている。原理を考えるのは欧米で、日本はそれに磨きをかける、そのやり方では今後勝てないだろう。もし数学生が多くのものづくり企業で活躍する日がくれば、弱みを克服し産業競争力は飛躍的に高まるに違いない。 筆者はダイキン工業株式会社にてシミュレーション技術開発に従事している。本講演では、空調グローバルNo.1となった弊社をとりまく環境が如何に変化し、従来のシミュレーション技術の枠組みではカバーしきれない新しい問題にいかに取り組む必要があるかを紹介する。どのような問い直しが求められ、原理から考える必要が生じているかを感じとってもらえればと思う。