論文賞 1998年度

(著者の所属は論文発表時のもの)

論文賞
理論部門

[論文]

Bessel関数の零点を標本点に持つ補間および数値積分公式 (日本応用数理学会論文誌 Vol.6,No.1,1996,pp.39-66)

[著者]

緒方 秀教(東京大学), 杉原 正顕(東京大学)

[受賞理由]

本論文では,Bessel関与の零点を用いた補間公式および補間型数値積分公式の性質を論じ,とくに,その精度を解析的手法により詳細に議論したものである. その内容は無限区間の数値積分理論における新しい展開の可能性を示すものとして高く評価される. 論文の初期の目的であるBessel関数を含む振動積分に対する数値積分法の構築はその後の論文で実現している. 公式のさらなる応用・実用への可能性を探るとともに,より一般的な枠組みのなかで理論を発展させることが望まれる.

応用部門

[論文]

不完全離散ウェーブレット変換のポアソン方程式解法への応用と並列処理 (日本応用数理学会論文誌 Vol.7,No.4,1997,pp.373-388)

[著者]

田中 伸厚(東芝)

[受賞理由]

本論文は,ウェーブレット変換を共役傾斜法の前処理に利用するという新しい解法を提案したものであり,その斬新なアイデアは高く評価される. 今後,より数理的な側面について研究を展開していただきたい. この論文では,長方形領域の一様な拡散問題の例だけが示されているが,今後,不規則形状領域や,不均一な媒質中の問題,Neumann境界条件を含む問題などへの適用についての研究が期待される. また数値誤差がウェーブレット変換に及ぼす影響などについても詳しい分析が望まれる.

JJIAM部門

[論文]

Exact solutions of the Navier-Stokes equations via Leray’s scheme (JJIAM,Vol.14,No.2,1997,pp.169-197)

[著者]

岡本 久(京都大学)

[受賞理由]

非圧縮性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式は,実用上も理論上も最も重要な偏微分方程式の一つである. 本論文は,方程式の自己相似解に着目するという観点から,Navier-Stokes方程式の厳密解を統一的に扱ったものである. 自己相似解が満たすべき関係式は,Lerayの方程式の名で知られていたが,本論文は,その厳密解の具体例を初めて統一的に列挙したものである. 記述も明快で,この分野の今後の研究における基本文献となる可能性もある. Navier-Stokes方程式に対しては数値解析が幅を利かせている現在,本論文のように厳密解を追究する伝統的な解析も応用数学の重要な方法であり,日本応用数理学会の論文賞にふさわしいものである.