論文賞・ベストオーサー賞 2023年度
(著者の所属は論文発表時のもの)
論文賞 | |
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理論部門 |
[論文] 二重指数関数型数値積分公式による行列符号関数の数値計算 (日本応用数学会論文誌 2021 年 31 巻 3 号 pp. 105-132. リンク) [著者] 中屋 貴博, 田中 健一郎 [受賞理由] 行列符号関数は,複素変数zに対する符号関数sign(z)の行列への拡張であり,固有値計算やSylvester方程式の求解をはじめとして幅広い応用を持つ.行列符号関数の数値計算手法としては,Newton法,Schur法,有理関数近似など様々な手法が知られており,特にZolotarevの最適有理関数近似を利用した中務らの手法は,極めて高い収束次数を持つ解法として近年大きな注目を集めた.一方,大規模行列への適用に当たってはアルゴリズムの並列性が重要であるが,並列化に適したアルゴリズムという観点からの研究は,これまであまり行われてこなかった. |
ノート部門 |
[論文] 偏微分方程式による法線ベクトル場の構成 (日本応用数学会論文誌 2020 年 30 巻 3 号 pp. 249-258. リンク) [著者] 長谷部 高広, 黒田 紘敏, 寺本 央, 正宗 淳, 山田 崇恭 [受賞理由] 与えられた領域形状の幾何学的特徴を抽出することは,画像解析や最適形状の設計といった分野において,理論的にも応用的にも重要な問題である.本論文は,最も基本的な特徴量である法線ベクトル場を抽出する問題について,偏微分方程式にもとづく2つの手法を考察し,その数学的正当性を議論したものである. |
JSIAM Letters 論文賞 |
[論文] Causal inference for empirical dynamical systems based on persistent homology (JSIAM Letters, vol. 14 (2022), pp.69–72. リンク) [著者] Hiroaki Bando, Shizuo Kaji, Takaharu Yaguchi [受賞理由] 本論文では、2つの未知の力学系の因果的依存関係を推定する新しい手法として、ホモロジー因果推定法を提案をしている。 この手法は、それぞれの力学系から観測される時系列の遅延座標埋め込みによって得られるアトラクタのトポロジーの情報とパーシステントホモロジーを用いたものであり、従来の因果推定法では捉えられていないアトラクタの大域的情報に着目した点に新奇性があり興味深い。相関のある2つの系の因果関係の推定は様々な分野で潜在的な需要があり、今後の研究の進展によって提案手法の実問題への応用が確立されることが期待できる。 以上より、本論文は日本応用数理学会論文賞 (JSIAM Letters 部門) の受賞に相応しいと判断する。 |
JSIAM Letters 論文賞 |
[論文] Essential convergence rate of ordinary differential equations appearing in optimization (JSIAM Letters, vol. 14 (2022), pp.119–122. リンク) [著者] Kansei Ushiyama, Shun Sato, Takayasu Matsuo [受賞理由] 最適化問題とそれに対応する常微分方程式の離散化解法において、収束率が独立 変数の変数変換により任意に変化しうるため、解法の有効性の比較が困難であることが大きな問題となっていた。 本論文では、安定領域を手がかりに “essential convergence rate” という概念を新たに導入することで、最適化問題と常微分方程式の離散化解法を統一的につなぐ新たな視座を与えている。深層学習から導かれる勾配系問題に対する安定性・収束性の解析も示されており、さらなる発展が期待できる。 以上により、本論文は日本応用数理学会論文賞 (JSIAM Letters 部門) の受賞にふさわしいと判断する。 |
JSIAM Letters 論文賞 |
[論文] Theoretical comparison of two conformal maps combined with the trapezoidal formula for the semi-infinite integral of exponentially decaying functions (JSIAM Letters, vol. 14 (2022), pp.77–79. リンク) [著者] Tomoaki Okayama, Katsuya Hirohata [受賞理由] 指数的に減少する関数に対する半無限区間上の数値積分として、台形公式と等角 写像を組み合わせた Lund の方法と Muhammad–Mori の方法が知られている。これまで、数値的な知見により、後者の方法が前者の方法より優位性があると考えられていたものの、理論的な結果は得られていなかった。 本論文では、理論的な誤差解析により、後者の優位性を数学的に厳密に与えている。数値積分の興味深い基礎研究であり、様々な分野への応用も期待される。 以上により、本論文は日本応用数理学会論文賞 (JSIAM Letters 部門) の受賞にふさわしいと判断する。 |
JJIAM 論文賞 |
[論文] Delay-induced blow-up in a planar oscillation model (Japan J. Indust. Appl. Math. 38, 1037–1061 (2021). リンク) [著者] Alexey Eremin, Emiko Ishiwata, Tetsuya Ishiwata, Yukihiko Nakata [受賞理由] 時間遅れが含まれる力学系はpopulation dynamicsなどに幅広く応用されている。本論文は時間遅れを導入することによって、時間遅れがないときとは根本的に異なる大域挙動が発生し得ることを簡単な例を用いて厳密に証明したものである。具体的には、時間遅れがない時には安定なリミットサイクルがただひとつ存在するだけの単純な2次元力学系が、時間遅れを導入すると途端に無限に多くの不安定周期解が発生し、ある解は有限時間で爆発することが示された。このことは時間遅れの幅がいくら小さくても起きることが証明されており、驚くべき結果といえるであろう。同時に、極めて教訓的な力学系ともなっている。本論文内の数値実験は論文で証明されていることよりも細かい情報を与えてくれており、今後の研究の呼び水となるように思われる。以上の点から、本論文は論文賞JJIAM部門の受賞にふさわしいと判断した。 |
JJIAM 論文賞 |
[論文] BSDEs driven by cylindrical martingales with application to approximate hedging in bond markets (Japan J. Indust. Appl. Math. 38, 425–453 (2021). リンク) [著者] Yushi Hamaguchi [受賞理由] 無限個の(無限次元の)ノイズ過程で駆動される確率微分方程式は、その抽象理論のみならず、多くの応用も持つ重要な研究対象である。本論文では、柱状マルチンゲールと呼ばれる無限次元ノイズ過程で駆動される後退確率微分方程式(Backward Stochastic Differential Equation: BSDE)が取り扱われ、その数理ファイナンス分野への応用が研究されている。主結果は以下の3つである。 |
ベストオーサー賞 | |
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ベストオーサー賞論文部門 |
[論文] 輸送計画,輸送写像,輸送経路 ―有限集合と ℝ2 の最適輸送理論の違い― (応用数理32巻2号(2022), pp. 69-79. リンク) [著者] 高津 飛鳥 [受賞理由] 最適輸送理論は,大まかに言えば輸送に伴う費用を最小化する輸送方法を対象とした理論であり,数学的には,ある確率測度から別の確率測度への最適な変換を研究する理論である.この理論は源流をたどると18世紀末のG.Mongeの研究にまで遡る一方で,19世紀半ばのKantorovichによる一般化を経て近年もリッチ曲率を用いた幾何解析等で発展しており,また機械学習等での応用においても目覚しい成果が生まれている.本論文では,Monge-Kantorovichの問題について,有限集合と2次元実数空間の場合に限定して丁寧かつ平易な説明を行っている.2次元実数空間の場合,ある確率測度から別の確率測度に変換する写像である輸送写像のうち,最小費用を実現する写像が最適輸送写像であると定義し, Benamou-Brenierによる輸送経路のエネルギー最小化問題の解としての最適輸送写像の定式化が可能であることを説明している.一方,有限集合の場合は輸送経路の定義に問題が生じるが, J.Maasにより導入された既約かつ可逆なMarkov核を備えた有限集合上の確率測度がなす空間に対する距離関数を用いた最適な輸送経路の定式化が可能であることを説明し,派生する課題を紹介している.最後に,著者自身の研究も含めて近年の動向を説明しながら,今後の展望についてまとめている.本論文は,応用数理に関わる者に対して最適輸送理論のエッセンスをわかりやすく伝え,多大な貢献を行っている.以上により,ベストオーサー賞選考委員会は,本論文が日本応用数理学会ベストオーサー賞(論文部門)に相応しいものと判断した. |
ベストオーサー賞インダストリアルマテリアルズ部門 |
[論文] 3次元点群のアノテーションを効率化するための半自動化システム (応用数理32巻1号(2022), pp.32-36 リンク) [著者] 上坂正晃・新田恭平・佐藤大輔・大田佳宏 [受賞理由] 3次元空間上の物体・構造認識において、3次元の点群データの各点がどの物体に属しているかを識別するセグメンテーションは、3次元データの重要な解析技術のひとつとして活発に研究されている。3次元データ上の点が属する物体のラベリングは、場合によっては人間が膨大な手作業を行う必要があるため、高度なインターフェース開発や作業者の熟練度が要求される。著者らは、人間の手作業を半自動化する、3次元データに対するアノテーション支援ツールを開発した。本論文では、口腔内の3次元メッシュデータのアノテーションを例にとり、離散グラフに対する頂点の平均曲率と複雑度を用いた歯のアノテーションアルゴリズムを提案している。そして、人間の手作業を補助的に組み込むことで、アノテーションの精度と効率を両立する手法を提案したうえ、提案手法を実装したユーザーインターフェースが具体的に示されている。数理手法を産業へ応用し実用性の高いツールを開発した研究事例として高く評価できることから、ベストオーサー賞選考委員会は、本論文が日本応用数理学会ベストオーサー賞(インダストリアルマテリアルズ部門)にふさわしいものと判断した。 |