第6回業績賞(2016年度)

分類A.理論を重点とするもの: 1

[受賞者]

岡本 龍明 (日本電信電話株式会社)

[項目]

「公開鍵暗号の基礎理論と応用技術の研究」

[業績概要]

岡本龍明氏は、公開鍵暗号研究の重要性をいち早く認識して、80年代から今日まで一貫して日本のみならず世界の公開鍵暗号研究をけん引してきた。暗号の安全性という複雑な問題を、素因数分解問題などのより単純な問題の計算困難性に計算量帰着する理論体系が公開鍵暗号の基礎である。岡本氏は、その基礎理論において、統計的ゼロ知識証明可能な言語の特徴づけ、暗号の安全性を高める藤崎-岡本変換法、ペアリング暗号へ道筋を開いたMOV帰着法など、複数の後世に残る寄与をしてきた。それと共に、デジタル署名・認証、電子マネー、電子投票、関数型暗号といった公開鍵暗号の応用技術研究でも数多くの先駆的な業績をなしてきた。こうした岡本氏の研究は、日本応用数理学会業績賞にふさわしいものである。

分類B. 応用を重点とするもの: 2

[受賞者]

金山 寛 (日本女子大学)

[項目]

「領域分割法に基づく磁場解析ソフトウェアの開発」

[業績概要]

金山氏は、ADVENTUREプロジェクトにおいて、大規模化・高速化に関して世界トップクラスの磁場解析ソフトウェア(ADVENTURE_Magnetic)を開発した。これに類似のソフトウェアは世界的にきわめて少なく、専門性の高い分野にもかかわらず多数のダウンロード数を記録している。このソフトウェアの開発にあたっては、菊地文雄氏が世界に先駆けて有限要素法の理論を開発し、金山氏がいち早くそれを基にプログラム開発に着手した経緯があった。その後も杉本振一郎氏らの博士号取得者によるたゆまぬ研鑽が重ねられ、磁場解析の大規模化や高性能化が実現された。金山氏は、さらに、固体力学や熱伝導問題で成功したBalancing Domain Decomposition (BDD) 法の荻野正雄氏による変種Balancing Domain Decomposition DIAGonal scaling (BDD-DIAG) 法を静磁場問題に応用した。これらの研究は、日本応用数理学会業績賞に相応しいものである。

[受賞者]

合原 一幸 (東京大学) 平田 祥人 (東京大学) 田中 剛平 (東京大学) 鈴木 大慈 (東京大学) 森野 佳生 (東京大学)

[項目]

「前立腺癌の間欠的内分泌療法に関する数理的アプローチ」

[業績概要]

前立腺癌に対する効果的な治療法として広く採用されている内分泌療法において、長期間継続的に治療を行うと、癌細胞が耐性を獲得して増殖を再開する「再燃」と呼ばれる現象が知られている。これに対して、N. Bruchovsky博士らが、内分泌療法の中止と再開を繰り返す間欠的内分泌療法を提案した。合原氏らは、ハイブリッド力学系を用いて、間欠内分泌療法が効果を発揮することを説明する数理モデルを世界で初めて構築した。さらに、実際の臨床データを用いて数理モデルを改良するとともに、個々の患者に特有のモデルパラメータを推定して、投薬スケジュールを最適化する手法を確立した。一連の研究は、効果的な治療法や計測法を有効に用いるための数理的手法の有用性を示しており、今後、他の疾病に対する数理モデルを用いた治療法の応用展開を考える上でも、広く参考にされるべき優れた研究である。