第11回業績賞(2021年度)

分類A.理論を重点とするもの: 1

[受賞者]

杉原厚吉 (明治⼤学研究特別教授・東京⼤学名誉教授)

[項目]

錯視の数理モデリングとその応⽤

[業績概要]

 杉原厚吉⽒は,コンピュータビジョンの黎明期において,多⾯体の線画に関する性質の解析ならびに線画から3次元⽴体の再構成に関して,先導的な⼀連の研究を⾏っている.さらに,ボロノイ分割や交点・交線計算等に関する頑健なアルゴリズムの構築法など,幾何にまつわる離散数学や数値計算に関して多くの理論的成果を挙げている.  杉原⽒は,それらの理論研究の過程において計算機処理とヒトの認知との差異に着⽬し,不可能⽴体と呼ばれる錯視現象の数理モデルを研究するようになった.不可能⽴体とは,2次元画像を見たとき想起されるが⽭盾を内包するような3次元構造の総称である.杉原⽒は不可能⽴体に関する知覚処理プロセスの数理モデルを構築し,その仕組みの解明において顕著な業績を挙げている.また,その知⾒をもとに様々な作品を創作し,錯視研究の発展に⼤きく貢献してきた.その成果は,世界的に⾒ても杉原⽒の独壇場となっており,最も権威ある国際コンテストのBest Illusion of the Year Contestにおいて,優勝4回,準優勝2回という快挙を達成している.  杉原⽒は名古屋⼤学,東京⼤学,明治⼤学などを歴任し,応⽤数学ならびに⼯学の次世代を担う研究者の育成に尽⼒してきた.この間,計算幾何学や計算幾何⼯学,トポロジー,グラフィクスなどの専⾨書を著しているばかりでなく,理系研究者を対象とした論⽂や英語論⽂作成の指南書,⼀般⼈を対象とした錯視図形解説書や啓蒙書など幅広く多数の著書を出版している.錯視研究から⽣み出された成果は,複数の神社への「変⾝さい銭箱」の奉納,台湾の故宮博物院での展⽰,CNN やBBC での錯視⽴体の紹介など,⼀般社会に対するインパクトも⽬をみはるものがある.応⽤数学や情報⼯学における理論研究ばかりでなく,認知科学や⼼理学との学際分野での先進的な研究を展開するとともに,⼀般社会へのアウトリーチ活動においても顕著な実績を挙げている.  このような杉原⽒の研究と諸活動の実績は⽇本応⽤数理学会業績賞を贈るに相応しいものとして⾼く評価されるべきものである.

分類B. 応用を重点とするもの: 該当無し