第12回業績賞(2022年度)

分類A.理論を重点とするもの: 該当無し
分類B. 応用を重点とするもの: 1

[受賞者]

奥田洋司 (東京大学教授)

[項目]

並列FEM構造解析プログラムFrontISTRの開発・公開・産業応用

[業績概要]

奥田洋司氏は長年にわたり,有限要素法 (FEM)による並列構造解析コードFrontISTR(フロントアイスター)の開発を行い,顕著な業績を上げてきた。1998年から2002年まで,日本学術振興会がスポンサーとなって並列FEM構造解析プログラムGeoFEM(奥田洋司氏リーダー)が開発され,それを引き継いで,FrontISTRの開発が継続的に行われてきた。GeoFEMの当時はまだ一般には並列処理は未成熟だったが,FEMの基本機能と並列処理をカーネルとしたHEC-MW(High-End Computing Middleware)の原型が開発され,現在もバージョンアップが続けられている。HEC-MWを用いることで,FEMや計算機アーキテクチャに依存した並列処理手続き部分を隠蔽することができる。FrontISTRの並列処理は,解析対象の節点数に応じて多数の分割を許す領域分割法に基づいており,並列処理技術に後れをとっていた主要な商用ソフトウェアと比較して非常に高い性能を有する。奥田洋司氏の指導により,FrontISTRは構造解析コードとして必須な機能を取り込ん,世界的に使われている主要な商用構造解析ソフトウェアABAQUS,ANSYS,SOLIDWORKSなどとほぼ同等な要素ライブラリと,接触解析,固有値解析,動解析,衝撃解析,材料非線形解析,幾何学非線形解析,粘弾性解析,熱伝導解析など主要な解析機能を網羅している。FrontISTR は,そのソースコードがMITライセンスのもとで公開されている。これによって,産業界のユーザーなどは独自の機能追加を施し,それらの一部はFrontISTRにフィードバックされることもある。このような高機能な国産,しかもオープンソースの構造解析ソフトウェアは類をみない。奥田洋司氏は開発や保守の継続のため,一般社団法人FrontISTR Commonsという開発・利用組織を2018年4月に立ち上げた.その正会員数は2021年12月現在,87名,賛助会員数は19社である。FrontISTR Commonsに属する主要なユーザーは富士通,東芝,サムスン電機(韓国),大成建設,筑波大学,新光電気,構造計画研究所,アドバンスソフト,鉄道総合技術研究所など多数あるほか,全国8大学の計算機センターおよび富岳にインストールされている。FrontISTRは今後もCAEの中核をなす技術として用いられ続けるだろう。奥田洋司氏の功績は,FrontISTR というソフトウェアを開発しただけではなく,開発と利用の枠組みを作ることによって,長い間,日本のCAE技術者にとってブラックボックスだった,特に並列処理に基づく,構造解析システムの内部構造をユーザーに開放し,製造業や関連する産業の発展に大きく貢献している。このような奥田氏の研究と諸活動の実績は日本応用数理学会業績賞を贈るに相応しいものとして高く評価されるべきものである。