第21回 若手優秀講演賞 (2024年度)

受賞者 受賞講演について
石川 勲
(いしかわ いさお)
(愛媛大学データサイエンスセンター)

[講演題目]

局所解析汎函数上の押し出しの有限次元近似について

[講演概要]

本講演では,力学系から定まる局所解析汎函数上の押し出し写像の有限次元近似をデータ駆動的行う理論的な枠組みについて紹介する.この枠組みによって力学系のデータ駆動解析において重要な動的モード分解(Dynamic mode decomposition; DMD)を組織的に取り扱うことが可能となり,DMD のアルゴリズムによって得られる近似行列について数学的に厳密な解釈を与えることが可能となる.応用として,ユークリッド空間上の解析的なベクトル場について,ベクトル場から定まる力学系の軌道上の離散的な点から元のベクトル場を復元する手法についても紹介する.

岡本 和也
(おかもと かずや)
(早稲田大学大学院基幹理工学研究科数学応用数理専攻)

[講演題目]

群集を表現する数理モデルとしての5 近傍セルオートマトンについて

[講演概要]

近年,群集事故発生件数の増加に伴い,群集に関する研究は盛んになっている.群集事故は高密度下で発生しやすいが,高密度下の実験を行うことは,研究倫理の観点から困難である.そのため,群集を表現する数理モデルの重要性が高まっている.本研究では,5 近傍セルオートマトン(PCA5)のうち,PCA5-40 およびPCA5-59 について解析し,これらのモデルが,実際の群集で観測される高密度下における流量のピークを再現できることを示した.

工藤 桃成
(くどう ももなり)
(福岡工業大学情報工学部情報通信工学科)

[講演題目]

Gröbner 基底の計算量理論の定式化―暗号の安全性解析に向けて―

[講演概要]

Gröbner 基底の計算量を精密に評価することは一般には難しい問題であり,暗号の安全性解析などにおいても重要な課題となっている.本講演ではまず,Gröbner 基底の計算量を測る指標である求解次数について,従来研究で混同されてきた複数の定義を正確かつ厳密な形で与えた.その上で,暗号の安全性解析でよく用いられる半正則仮定の下,求解次数の上界評価およびGröbner 基底の計算量の漸近評価式を証明し,暗号の安全性解析への応用可能性を示した.

寺尾 樹哉
(てらお たつや)
(京都大学数理解析研究所)

[講演題目]

マトロイド制約下での劣モジュラ関数最大化に対する高速なアルゴリズム

[講演概要]

劣モジュラ関数最大化問題は,理論計算機科学において近年盛んに研究されている問題である.この問題は最大被覆問題などの主要な組合せ最適化問題の一般化として理論的に重要であり,さらに,機械学習などの幅広い分野への応用を持つ工学的にも重要な問題である.本研究では,マトロイド制約下での単調劣モジュラ関数最大化問題に対して,発表時点で最速の (1 − 1/e − ε)-近似アルゴリズムを提案した(εは任意の正の数).

山田 泰輝
(やまだ たいき)
(東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)

[講演題目]

位相的データ解析を用いた力学系の学習過程の評価

[講演概要]

パーシステントホモロジー(PH)は,位相空間の有限部分集合からホモロジーを推定する手法であり, 視覚的分析が困難なデータの位相的性質を定量化できる. 本研究では,ニューラルネットワークが学習した 5 次元力学系に着目し,力学系の不変集合の位相的性質を PH を用いて解析した. 学習に用いるデータ数の増加に伴う力学系の学習結果の変化を可視化することで,学習の安定性に関する洞察を与えた.