書評

岡本 久著 「最大最小の物語」~ 関数を通して自然の原理を理解する ~(サイエンス社, 2019)

2019年09月09日

穴田 浩一

あなだ こういち

早稲田大学高等学院

本書は、高校数学をやっていれば理解できる言葉で、最大最小にまつわる問題を関数を通して解く方法が丁寧に解説されている。タイトルに「物語」とあるが読み物風の本ではなく、高校生や大学初学年のレベルで理解できそうな部分は手を抜かず計算され、各章の章末には演習問題も多数おかれ、読者にきちんと数学を身につけてもらいたいという思いが伝わってくる。また、演習問題の巻末解説も丁寧で、最後の部分では読者を励ますようなメッセージも添えられるなど、難解な問題に取り組む読者の意欲を落とさないような配慮も特徴の一つだろう。

本文では、歴史上の数学者を通して最大最小の問題を扱っており、第1章から第7章までは、ユークリッド、アポロニウス、ゼノドロス、ヘロン、アルヘイゼン、レギオモンダヌス、ガリレイ、ケプラー、フェルマー、トリチェッリ、ファニャノ、オイラー、ラグランジュといった西洋の数学者、第8章は、武田眞元、久留島義太、和田寧、佐藤雪山といった和算家の名前を挙げながら、それぞれの数学者が取り組んだ問題を今の読者にわかるような形で提示している。

また、続く第9章でも様々な最大最小問題を扱っている。この章は最終章ということもあってか難問も多いが、「初等幾何の問題を三角関数の応用として解くというのは19世紀には常識に・・」「一見正しそうに思えることでも実は正しくないことが・・」などのコメントを交えながら個々の問題を丁寧に解説している。

この、数学史を絡めながら問題に取り組む本書の構成には、読者に学校の授業とは違った視点で数学に興味を持ってもらいたい、といった意味に加えて、もう一つ、数学の教師に対するメッセージが込められているように思う。実際、後書きでは、数学の教師が数学史を学ぶことの重要性を説いている。そういう目で見直してみると、本書は「最大最小にまつわる問題」を軸に数多くの歴史上の数学者やその当時の数学の状況に関する話などがコンパクトにまとめられていて、数学の教師が数学史を学ぶ本としても一読する価値があるように思う。

ところで、学習指導要領から「解析」という言葉がなくなってずいぶん経つが、本書は全体を通して、そんな学習指導要領の中で学んだ今の高校生や大学初学年の学生に、高校数学をやっていれば理解できる言葉で丁寧に説明されている印象を受ける。そんな中、本文中に「解析」という単語が現れる箇所がいくつかあることに気がついた。

一つ目は「アポロニウスの最大最小問題」の節。ここでは、アポロニウスの「円錐曲線論」にある最大最小にまつわる問題を取り上げ、円錐曲線(二次曲線)と同一平面上にある点からの距離が最小あるいは最大となる円錐曲線上の点を求める方法が解説されているが、その後半に「このように厳密でないやり方でやってみても・・(中略)・・これは不思議ではあるが、解析学ではよく経験する現象である」と述べられていた。

続けて「厳密に証明するためにはラグランジュ乗数を使うことをおすすめする」とあるので、その指示に従って第7章にあるラグランジュ乗数の部分をみると、二つ目の箇所を見つけることができた。ここでは、アポロニウスの最大最小問題をラグランジュ乗数を使って解く方法を説明した後、変分法を用いて等周問題を考えている。変分法の計算は容易ではないが、その難解な部分の話は「オイラーによって解析的な証明が・・」という段落から始まり、「完全な解に到達するにはさらに解析と計算が必要・・」と締めくくられていた。

実は、この節の途中に「こうした厳密性に欠ける計算を数学の授業から排除すべきではないと考えている。なぜそうしてもかまわないかは、使い続けていけば後からわかってくるからである」との記述があるが、この考えに大いに賛同する。実際、本書は「こうした厳密性に欠ける計算」をあえて示した上で、厳密に考えるにはどうしたらいいか、という点について指南することで、さらに先へ進む意欲を引き出せているように感じられる。

加えて、こうした箇所に数学史を絡めつつ「解析」という単語を使うことで、数学における「解析」という分野の位置付けをイメージさせながら、「完全な解に到達するために必要な「解析」って何?」と読者を惹きつけることができているように思う。序文で「ある人にとってみれば、本書のような題材は道草であろう」とあるが、実際には道草どころか、関数の性質を厳密に扱う分野「解析」へ一直線につながる道に見える。(「ある人にとってみれば」という部分に著者の本書に対する思いが現れていると思う。)

最後に、これまで数学における高大接続といっても、せいぜい高校3年と大学1年の最初の部分とのつなぎ目くらいのことしか考えていなかったと、本書を通して大いに反省させられた。本書は、その先の「解析」への橋渡しとしてひろくお薦めできる良書である。