書評

「パターン形成と分岐理論 -自発的パターン発生の力学系入門-」 桑村雅隆 著 共立出版

2018年12月11日

坂元 孝志

さかもと たかし

明治大学理工学部

本書は,常微分方程式系の解の構造を解析するための,力学系的手法の入門書である.「力学系」のタイトルを冠したテキストは数多く出版されているが,その中でも常微分方程式系への応用についての丁寧かつ詳細な解説が魅力的な一冊である.各章の内容を概観するとともに,筆者の所感を述べる.

第1章「現象と微分方程式」

簡単な微分方程式の導入から始まり,マルサスモデルやロジスティック方程式に関する解説が記述される.続けて,単振り子,化学反応(ブリュセレーター)に現れる振動へと展開する.

第2章「安定性」

力学系理論において重要な平衡点とその安定性の解説が丁寧に記述されている.特に,平衡点の安定性に関連する言葉の定義について,比較的平易な説明と,ε-δ 論法を用いた数学的に厳密な定義とが記述されている.こうした記述は他の章においても一貫しており,数学を専門とする者と応用上の必要に迫られて力学系を学ぼうとする者双方に対する心配りが見受けられる.続けて中心多様体定理についての説明とその応用が記述される.特に例題とその解説が丁寧であり,中心多様体定理の意味が自然と理解されるよう工夫されている.続けて,モノドロミー行列とフロケ乗数,保存系と勾配系へと展開される.後半では,ロトカ・ボルテラ方程式,ファン・デル・ポル方程式,境界値問題への応用が説明される.これらの具体例を通して,より深く安定性の概念とその重要性が理解できる内容となっている.最後の節では, Blow up 変換の解説がなされる.

第3章「分岐」

分岐理論の概要がコンパクトかつ丁寧に記述されている.一般的な分岐の型の分類定理が整理されており,初学者にとってわかりやすく記述されている.後半では実例として幾つかの例題とその解説が丁寧に記述されている.最後の節ではチューリング理論(生物の形態形成理論)のアイデアが説明され,続けて反応拡散方程式系の導出とその解析へと理論が展開される.

本書には,これらに加えて「微分積分と線形代数に関する事柄」「常微分方程式と関数解析に関する事柄」「数値計算法に関する事柄」の3つの付録が準備されている.

以上が本書の大まかな内容である.

全体を通して,力学系理論の入門的内容とその応用について丁寧に解説されており,初めて力学系を学ぶ者にとっては最適の入門書である.また,掲載されている参考文献には,力学系理論とその応用についての優れたテキストが多数挙げられている.それらを本書を読了後に(または並行して)読み進めれば,力学系に関する内容をより深く学ぶことができるであろう.