書評
『有限要素法で学ぶ現象と数理』(大塚 厚二, 高石 武史 著)
2014年12月15日
大森 克史
おおもり かつし
富山大学 人間発達科学部
FreeFem++はフランスのパリ第6大学リオンス研究所のピロノ教授とエヒト教授が中心となって開発した、有限要素法による偏微分方程式の数値計算のためのオープンソフトウエアである。本書は、FreeFem++の解説書である。筆者の一人、大塚氏はFreeFem++の開発メンバーである。 本書は次の6章からなる。
第1章 数理モデルと偏微分方程式
第2章 FreeFem++による有限要素法の入門
第3章 FreeFem++による高度な有限要素解析
第4章 FreeFem++による連続体力学
第5章 FreeFem++による反応拡散問題の計算
第6章 数学ノート
第1章では、梁のたわみ問題で1次元有限要素法を簡単に解説し、リングに張られる石鹸膜等の数理モデルで、偏微分方程式に関する予備知識を述べている。さらに、連続体力学の入門的な解説をしている。
第2章では、2次元の円領域での石鹸膜問題でメッシュ分割、有限要素空間の生成、弱形式から連立1次方程式の生成、計算結果の評価を与えている。連立1次方程式のソルバーは、直接法ではLU分解法、Crout法、コレスキー法等や、反復法ではCG法、GMRES法等の高度なアルゴリズムを採用している。解の評価として、数値計算可視化の実際やアダプティブメッシュを用いた方法を解説している。
第3章ではデータ構造と画像データからメッシュデータを構成する方法や、近似誤差とアダプティブメッシュを利用して解を改善する方法を述べている。FreeFem++の提供する2次元有限要素は、ラグランジュ要素の他に、非適合1次要素、気泡関数要素等と、3次元要素は四面体メッシュに対してP1要素、P2要素をはじめ気泡関数要素等がある。さらに、関数補完を誤差評価に応用したり、領域分割法でポアソン方程式を解いている。
第4章では、歪みテンソルや応力テンソルを簡潔に表現するマクロ機能について解説し、弾性体の基本問題、形状最適化問題を解いている。さらに、流れ問題の数値解法として強力な特性曲線有限要素法は、FreeFem++ではconvectで実現され、rotating hill 問題を解いている。また、レイリー・ベナール対流をブシネスク近似を用いてFreeFem++で解いている。
第5章では、反応拡散方程式系をFreeFem++で解いている。空間パターンのダイナミクスをグラフィックで観察することは、パターン形成の数理を理解する重要なヒントを与える。チューリングの拡散不安定性について説明した後、activator-inhibitorモデルにおけるパターン形成問題やグレイ・スコットモデルによるパターン形成問題を解き、アレン・カーン方程式をアダプティブメッシュを利用して解いている。最後に、activator-inhibitorモデルの双安定の場合における3次元のパターン形成を計算している。
第6章は超関数、ソボレフ空間の基礎を概観し、有限要素法の理論として凸領域での誤差評価について解説している。また、混合型有限要素近似とinf-sup条件に関して、FreeFem++の工夫の必要性とペナルティ法の関係に興味を持った。
本書は、数理科学の研究のレベルの実用的な問題をFreeFem++で解析しており、応用数学、応用解析学をはじめ、エンジニアリングの最前線にいる研究者に研究のヒントを与えるものと言える。