書評

『Introduction to Finite Strain Theory for Continuum Elasto-Plasticity』(K. Hashiguchi, Y. Yamakawa 著)

2013年06月26日

萩原 一郎

はぎわら いちろう

明治大学 研究・知財戦略機構

Introduction to Finite Strain Theory for Continuum Elasto-Plasticity (Wiley Series in Computational Mechanics)

Koichi Hashiguchi, Yuki Yamakawa 著

John-Wiley & Sons Ltd., 2012年

 

 

 

 


専門家対象の力学関係の書籍は通常購買数が伸びない中,本書は,昨年11月のWileyジャパンベストセラー・ランキング第1位である.これは本書が,有限弾塑性論についての初めての本格的な専門書でありながら,弾塑性について基礎的な知識しか持たない読者を対象とする入門的な教科書であること,有限ひずみ解析を行う上で理解しておくべき数学的・物理学的基礎を,最新の理論を取り入れながら解説されていることからであろう.

工業技術の飛躍的発展に応じて,高度な力学設計が求められているが,その基本は弾塑性設計に他ならない.したがって,多くの弾塑性論に関する書籍が出版されているが,これらは,微小変形・微小回転に限定した微小弾塑性論,あるいは,速度勾配テンソルの対称部分としてのひずみ速度テンソルの弾性,塑性部分への加算分解を前提とし,また,現配置のテンソルを用いる亜弾性‐塑性構成式を前提としている.しかし,ひずみ速度テンソルの加算分解の成立は,微小弾性変形に限定され,また,現配置のテンソルは,剛体回転の影響を直接受けるので,応力や内部変数の速度については,客観速度テンソルに塑性スピンテンソルを加味した複雑な定式化が求められる.加えて,数値計算においては,応力および内部変数の算定に当って,これらを一旦,回転に依存しない基準配置に戻した後,時間増分を加えて現配置に戻す煩雑な数値積分が求められる.亜弾性‐塑性構成式の上述の欠点を解消し得る超弾性‐塑性構成式の究明が進められ,2000年頃にその基礎が築かれ,2005年頃に至って具体的な弾塑性構成式およびそれに伴う数値解析法がほぼ確立されたといえる.本構成式においては,変形勾配テンソルを弾性,塑性部分に乗算分解し,弾性ひずみテンソルを弾性変形勾配テンソルにより定義し,これに対して応力を超弾性式として関係づけるので,弾性変形が厳密に表現される.また,ひずみテンソルから塑性ひずみ速度の集積値を除いて得られる弾性ひずみテンソルを超弾性式に入力することにより,時間積分によらずに,応力が直接かつ厳密に算定される.内部変数についても同様である.したがって,有限弾塑性変形が厳密に表現されるとともに,高効率・高精度な数値計算が実現される.次の基本的事項をはじめ,具体的な有限弾塑性構成式および数値解析法が詳細に解説されている.

微小弾塑性論と有限弾塑性論の基本的相違,曲線座標系におけるテンソル表現,共変微分,プルバックおよびプッシュフォワード操作,埋込み (Lie) 微分,客観性の本質,共回転速度テンソル,乗算分解,Mandel応力,共役塑性ひずみ速度テンソル,リターンマッピングおよび整合接線係数テンソル,Exponentialマップ,単純せん断,片持ち梁等の変形解析例

なお,基本概念や物理的意味が分り易く説明され,また,全ての式の誘導過程が飛躍無しに示されているとともに,本書に解説された解析についての計算プログラムが添付されているので,それにより具体的解析が実行可能である.本の装丁も同図のように親しみが持てるものとなっている.大学院生の思考能力涵養の面からゼミテキストとして好適であるとともに,教官の研究の糧として,また,企業技術者の力学設計の抜本的改善に向けて一読が望まれる.