ラボラトリーズ
Imperial College London 『MPECDT』の参加体験記
2019年05月06日
渡邊 圭市
わたなべ けいいち
早稲田大学大学院基幹理工学研究科
はじめに
私は2018年09月09日から12月16日までに99日間,イギリスのロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ロンドンに滞在しました.この滞在は早稲田大学スーパーグローバル大学創生支援数物系科学拠点における学生派遣事業によって実現したものです.受け入れてくださったのは,イギリスの工学・物理科学研究評議会が支援するプロジェクト: Centre for Doctoral Training (CDT) の一つである Mathematics of Planet Earth (MPE) コースです.頭文字をとって MPECDT と呼ばれています.MPECDT はインペリアル・カレッジ・ロンドンとレディング大学が共催する,修士(1年間)+博士(3年間)のプログラムであり,インペリアル・カレッジ・ロンドン側のコーディネーターは Dan Crisan 先生でした.私の専門分野は関数方程式論ですが,地球惑星科学に現れる方程式系を研究しているため,研究の背景についてより理解を深めためにプログラムに参加したいと思い,インペリアル・カレッジ・ロンドンの訪問学生として(特別に)約3ヶ月間プログラムに参加させていただくこととなりました.本稿では,プログラムの概要を紹介した後にロンドンでの生活の様子について紹介したいと思います.
MPECDTの概要
MPECDT の修士課程は MRes と呼ばれ,Term 1, 2, 3 から成ります.ただ,Term 1 の前に Kick-Off Camp (KOC) というオリエンテーション合宿があり,プログラム生は参加することになっています.このKOCはレディング大学で行われ,プログラム生はレディング大学のキャンパス内にある学生寮に2週間滞在し,衣食住をともにします.プログラム生は,出身がバラバラであり,出身大学はもちろんのこと,出身学部も数学や物理のみならず情報系の学部出身の学生もいました.プログラムの Funding の関係上,私を除くプログラム生はみなEU圏の大学出身でした.KOC は,異なる背景知識を持つプログラム生同士の交流を最大の目的としており,その交流を円滑に進めるためのグループアクティビティーが多くありました.また,Term 1 から始まる基礎講義において理解度の差が(極端に)出ないよう,気象学や Python の講義,そして数学(学部2~3年程度のベクトル解析と測度論)の講義がありました.これらの基礎講義は,気象学や Python についてほとんど知らなかった私にとっては大変有益でした.なお,私は英語でコミュニケーションをとるのに大変苦労しました.これまでに出席したことのある国際研究集会での講演に比べると,ほかのプログラム生の話すスピードはかなり速く,何を話しているのか本当に聞き取れず,大変ショックを受けました.いま振り返ってみれば,英語が下手であってもなんとかほかのプログラム生とコミュニケーションをとれたような気がします.たとえ英語が話せなくても,コミュニケーションをとろうとする姿勢が大切だと実感しました.
KOC が終わった後の Term 1 では,Partial differential equations,Dynamical systems,Data and uncertainty,Numerical methods の基礎講義がそれぞれ 6 時間のチュートリアルと 20 時間(10 回)の講義がありました.講義は Kick-Off Camp で配布される教科書をベースに進められました.基礎講義は水曜日を除く平日に行われ,10月上旬から12月中旬までの間にありました.前半はレディング大学で行われ,後半はインペリアル・カレッジ・ロンドンにて行われました.レディング大学で行われる講義はインターネット中継を通じてインペリアル・カレッジ・ロンドンで受講することができました.逆もまた同様でした.よって,KOC 後は,インペリアル・カレッジ・ロンドンの学生とレディング大学の学生が交流する機会が必然的に減ります.それを解消するべく,毎週水曜日に行われる,地球惑星学に関するセミナーや各基礎講義のチュートリアルはインペリアル・カレッジ・ロンドンとレディング大学で交互に開催されました.これは MPE Wednesday と呼ばれます.私はインペリアル・カレッジ・ロンドンの学生として滞在していたので,2週に1度レディング大学まで行っていました.ロンドンとレディングの距離はおよそ60キロメートルで,新宿から成田と同じくらいです.なお,基礎講義のレベルとしては,学部4年~修士1年くらいのレベルでした.とはいえ,私の専攻である Partial differential equations 以外はあまりなじみのないものであり,専門分野以外のことを学ぶ良い機会となりました.具体的には,Partial differential equations では特性曲線法などの理論と微分幾何について,Dynamical systems ではエルゴード理論と確率微分方程式について,Data and uncertainty では確率論(の基礎)とモンテカルロ法について,Numerical methods では有限差分法と反復法について学びました.いずれの講義も,抽象的な理論について厳密に解説するというよりは,実際の物理現象(数理モデル)を題材にして大まかな考え方を解説するというものであり,やや工学寄りの講義である印象を受けました.この基礎講義のおかげで,専門以外の分野における研究のアイディアやモチベーションをつかむことが以前よりもできるようになった気がします.
ロンドンにおける生活
ロンドンにおける物価は,噂通り高いです.もしかしたら日本の物価が安いだけかもしれませんが,感覚としては,ロンドンにおける物価は,日本の 1.5~2.0 倍程度だと思います.当然,外食も非常に高く,レストランにおけるランチは安くても1000円,ディナーとなると安くても2000円くらいでした.これらの理由から,私はほとんど自炊していました.また,学食も平均800円くらいだったので,昼食も弁当を持参していました.いま振り返ってみると,野菜だけは安かったこともあり,なかなか健康的な食生活を送ることができたと思います.基本的に自炊していた私ですが,Tesco というスーパーのパンとマフィンは安くておいしかったので何度もお世話になりました.
謝辞
今回の海外派遣に際して,早稲田大学の柴田良弘先生および Martin Guest 先生,インペリアル・カレッジ・ロンドンの Dan Crisan 先生および Darryl Holm 先生,早稲田大学スーパーグローバル大学創生支援数物系科学拠点の秘書の池崎奈津子様,MPECDTの秘書の Craig Smith 様およびSam Williams 様には大変お世話になりました.この場を借りて厚く御礼申し上げます.