ラボラトリーズ

『神楽坂「感染症にまつわる数理」勉強会』について

2019年06月07日

石渡 恵美子

いしわた えみこ

東京理科大学 応用数学科

2018年の2月末より,『神楽坂「感染症にまつわる数理」勉強会』と題して,2か月に1回のペースで東京理科大学神楽坂キャンパスにて勉強会を開催しております。本件についてお話しする前に少しだけ,当大学の研究推進機構総合研究院(https://rist.tus.ac.jp/)における研究部門の活動について触れることにしましょう。本研究院は,本学の総合研究体制強化を目的として,2015年4月に既存の旧総合研究機構を改組し設立されました。現在,21の研究部門,7つの研究センター,2つの共同利用・共同研究拠点から構成されており,分野間の連携や学内外の壁を取り払った研究の推進を目標としています。産学連携の研究プロジェクトを推進する研究部門が多数で,これからの産業や医学・薬学・宇宙に繋がる研究テーマが数多く進められています。そのような状況の中,2015年度に,本学理学部第一部数学科の加藤圭一教授(現部門長)が中心となり,数学系初の研究部門『数理モデリングと数学解析』を立ち上げました。本学は神楽坂,葛飾,野田,長万部にキャンパスがあり,それぞれに数学系の先生方が在籍していますが,本部門のメンバーは,理学部第一部数学科,応用数学科,物理学科,理学部第二部数学科,工学部建築学科,情報工学科,理工学部数学科など幅広い学部学科から集まっています。筆者も立ち上げのときからのメンバーの一人ですが,初回のミーティングでは,今まで名前は存じ上げていても,お会いする機会のなかった先生方の幅広い研究内容に触れることができました。その後,学部・学科を横断した共同研究を開始しています。

本研究部門では,物性物理への応用を目指したSchrödinger方程式の解表現,CTスキャンや非破壊検査に関連する逆問題,そして,筆者自身が関わる感染症などの数理モデリングについて,集中講義,勉強会,海外からの来訪者を含めた研究集会が積極的に開催され,学内外の連携による共同研究が進められています。さらに,2017年度に数学系の研究部門として新たに発足した『現代代数学と異分野連携』研究部門(部門長:理工学部数学科伊藤浩行教授)と合同で,学内の異分野からの数学の問題に関する相談窓口を設けるなど,数学系ならではの取り組みをしています。 研究部門の発足当時,筆者が所属する理学部第一部応用数学科に着任した江夏洋一嘱託助教とともに,部門内に感染症の数理モデリングに関するテーマを含めました。本学理工学部数学科の牛島健夫准教授と3人で共同研究を始め,お互いのキャンパスを行き来して議論を重ね,2017年度から現在まで国内外の学会等で成果発表を,2017,2018年度には合同合宿や合同セミナーを開催し,両研究室の卒研生や他大の学生も含めての交流を図っています。共同研究として取り組み始めた空間への拡散を考慮した感染症モデルの解析は,筆者自身が知らないことばかりでした。差分型の感染症モデルに関する定性的性質や時間遅れをもつ場合の数値的な振る舞いは以前より院生と調べていましたが,連続型の感染症モデリングや解の性質に関する解析はまだ知らないことが多いと痛感しました。そう思った矢先,牛島先生のご提案もあり,数学に限らず,感染症に関連する諸問題に詳しい先生方のお話を聞いて交流を持ちたいと,表題の『神楽坂「感染症にまつわる数理」勉強会』(https://www.rs.tus.ac.jp/yenatsu/kids/kids.html)を立ち上げることにしました。研究部門との共催として,2か月に1度のペースで2時間程度のご講演をお願いし,じっくりとお話を聞ける機会として,交通の便も良い神楽坂キャンパスにて開催しております。これまでに開催した勉強会は以下の通りです。

第1回:2018年2月28日(水) 俣野 博 先生(明治大学)

「Plant disease propagation in a spatially periodic medium」

第2回:2018年5月19日(土) 梯 正之 先生(広島大学)

「感染症から学ぶ数理モデリングの心と力

(Ideas and powers of mathematical modelling afforded by infectious diseases)」

第3回:2018年7月25日(水) 斉藤 正也 先生(統計数理研究所)

「国内風疹に対するワクチン接種政策への数理モデルの応用」

第4回:2018年9月28日(金) 中田 行彦 先生(島根大学)

「複雑な感染症流行動態の数理モデリングと数理解析」

第5回:2018年12月21日(金) 森田 善久 先生(龍谷大学)

「保存則をもつ反応拡散方程式系モデルに現れる空間パターンについて」

第6回:2019年1月22日(火) 大泉 嶺 先生(国立社会保障・人口問題研究所)

「構造人口モデルの固有関数展開~生活史進化と確率的個体群動態の漸近解析~」

2019年度の初回は,元号が令和に変わった直後の5月10日(金)に「感染症疫学における数理モデリング」というタイトルで大森亮介先生(北海道大学)にご講演いただく予定です。

この1年間で,ブドウ畑に生じる真菌性の疫病の広がりを記述する数理モデルの進行波解や拡がり速度から,小学校の集団感染データの分析事例,国内の風疹流行予防対策,時間遅れを考慮した感染症の数理モデリングの基礎から応用,感染症にまつわる反応拡散方程式の解構造に関する研究紹介,密度効果や環境変動を考慮した構造人口モデルの生活史進化への応用と,理論解析や身の周りの統計データに基づく様々な話題について,ご紹介いただきました。講演してくださった先生方には,この場を借りて,御礼申し上げます。今後は,数理のみならず,生物,医学,薬学の現場で実際の現象や病気に向き合っておられる先生方からのご講演もお願いできればと思っております。

筆者らが所属している研究部門の活動は5年間を期限としてスタートしました。そのため,2019年度で一区切りとなりますが,本勉強会には学生も参加しておりますので,じっくりお話を聞きつつ,自由に質問できる堅苦しくない勉強の場として,今後も続けていきたいと思っています。学内外,学生・教員問わず,ご興味のある方はぜひ,ご参加いただけたら幸いです。神楽坂にてお待ちしております。