ラボラトリーズ

University of Maryland, Institute for Physical Science and Technologyの紹介

2020年03月04日

齊木 吉隆

さいき よしたか

一橋大学大学院商学研究科

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筆者は2012年以来メリーランド大学のJames A. Yorke教授と共同研究をしており、2017、2018年度は在外研修でメリーランド大学に滞在しておりました。そこで、この場をお借りしてメリーランド大学について紹介させていただきます。メリーランド大学はアメリカ合衆国メリーランド州にある州立大学でパブリックアイビーに数えられることもある研究大学です。数物系学科のアメリカ国内ランキングでは10-20位程度に位置しているようです。メインのカレッジパーク校はワシントンDCの中心部から30分ほどのところに位置しています。筆者はInstitute for Physical Science and Technologyという研究所を訪問しておりますが、所属の教員の多くは数学科もしくは物理学科と兼担しています。筆者の専門である力学系の専門家が多数在籍しており、世界的な拠点のひとつになっています。筆者の共同研究者であるJames A. Yorke教授の他、Jacobson教授、Ott教授、Kaloshin教授、Dolgopyat教授、Hunt教授などが在籍しています。Institute for Physical Science and Technologyには他にフィールズ賞受賞者のNovikov教授や統計物理で著名な Jarzynski教授、Fisher教授、流体実験で著名なSreenivasan教授などが在籍しています。Google創業者のBrin氏はメリーランド大学の数学科卒業生で、Brin氏の父は数学科の教授をしています。セミナーも充実しており、筆者の守備範囲だけで、Applied Dynamics Seminar, Dynamics Seminar, Weather Chaos Seminar, PDE Applied Math Seminarが学期中ほぼ毎週開催され、その他に数学、物理学のコロキウムが定期的に開催されています。Applied Dynamics Seminarはランチタイムに開催され無料でピザが振舞われるため、学生も勇んで参加しています。

メリーランド大学は州立大学であるため、各教職員の年収が公表されているのですが、教員の年収は1000万円-3500万円程度で、研究員でも年収2000万円程度の人が結構居るようです。ちなみにアメリカンフットボールのコーチは年収8000万円程度で学長より高給です。筆者が在外研修時に住んでいたBethesdaという町の世帯平均年収は1700万円とのことです。授業料も日本の国公立大学よりはるかに高く、メリーランド州在住者で年200万円、メリーランド州以外出身者でその倍近いようです。ランチ代も高く、学内で取っても1食10ドル、学外だと20ドル程度になり、日本との経済格差を感じます。ただ、30年前の物価が日米で同一水準だとして、アメリカが1年平均2%のインフレをおこし、日本が過去30年間物価水準が変わらないと仮定すると30年の間に1.02^{30}=1.81の物価水準の差が出たということになり説明が付きます。とは言え、日本学術振興会の海外特別研究員の給与が研究機関の最低賃金に達しておらず、追加の給与がないと研究機関に在籍できないという話も聞こえてくるなど、さすがに日本経済も改善の余地がありそうです。

大学近郊にはNASAがありますが、NASAが国の機関で原則アメリカ国籍保持者しか雇用できないこともあり、実はNASA職員のかなりの割合が表向きはメリーランド大学に雇用されているそうです。近郊には他に、IMF、世界銀行、CSISなどの機関の他、アメリカの医学研究の中心のひとつであるNIHがあり、日本人も数多く駐在しています。アメリカの他の主要都市に比べて企業派遣の駐在員の比率がかなり低いと思われます。

最後に筆者が感じた日本の大学との差異について述べたいと思います。良く知られているようにアメリカの教授の多くはテニュア(終身雇用)です。アクティブでない年長教員が居続けられてしまい若手の教員採用が滞るという欠点もあるようですが、アクティブな年長教員が活躍し続けられる大きなメリットを感じました。また、大学への寄付金の多さも感じます。メリーランド大学内の
多くの建物は寄付者の名前を冠していますが、建築費の30%程度を負担することにより、寄付者の名前が残るそうです。学問的には、ダブルディグリー制度や複数指導教員制度が優れた制度であると感じました。いずれも学生の視野を広げることに役立っているのみならず教員の学際的交流にも役立っていると思われます。このような仕組みは日本の大学でも徐々に広まっていくことを期待したいと思います。