ラボラトリーズ

東北大学 知のフォーラムの活動と今後の展開

2018年03月09日

井元 佑介

いもと ゆうすけ

東北大学 研究推進・支援機構 知の創出センター

東北大学 知のフォーラム

東北大学「知のフォーラム」は東北大学発の先駆的研究領域の創出と人類社会の共通課題解決に資することを目的として、2013年より文部科学省の研究大学強化促進事業の支援を受けて活動を始めました。知のフォーラムを推進するために、2013年10月に日本初の訪問滞在型研究センターの「知の創出センター(Tohoku Forum for Creativity)」を設置、2015年3月に知のフォーラムの拠点施設となる「知の館(TOKYO ELECTRON House of Creativity)」(図1)を竣工し、主な活動として「Thematic Program」と「Junior Research Program」と呼ばれる研究プログラムを実施しています。知のフォーラムの活動開始から2018年2月現在、ノーベル賞受賞者14名、フィールズ賞受賞者3名を含む約700名の国内外の研究者を招聘し、総勢7500名以上の研究者が知のフォーラムに参加しています。

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図1 東北大学 知の館(片平キャンパス)

 

知の創出センター(Tohoku Forum for Creativity)

知の創出センターは2013年10月に設立された日本初の本格的な訪問滞在型研究センターです。知の創出センターは、2018年2月現在、伊藤貞嘉センター長(東北大学 研究担当理事兼任)、前田吉昭副センター長、著者を含む3名のプログラムコーディネーター、および12名の事務スタッフで組織されています。さらに、国際公募によるテーマプログラムの審査および知のフォーラムの助言を行う組織として、ノーベル物理学賞受賞者の小林誠特別栄誉教授、ローレンツセンター所長のProf. Arjen Doelmanをはじめ、7名の著名研究者に国際アドバイザリーボード委員を務めていただいています。

 

知の館(TOKYO ELECTRON House of Creativity)

知の館は2015年3月に竣工された知のフォーラムのシンボルと言える研究施設です。知の館には知のフォーラムで新たなアイディアを発掘し,それを形にするための工夫が散りばめられています。3階の講義室(図2)は、講演者と聴講者との距離が近くなるように、100席程度の規模となっています。また、座席がわずかに下る傾斜上に設置されており、どの席からも講義風景が見やすい設計となっているため、聴講者はゆったりとした座席から講義に集中することができます。1階のラウンジ(図3)は、壁一面の黒板を設置したモダンな雰囲気の空間となっており、研究者たちは憩いの場として利用することも、互いのアイディアを交換する場として利用することもできます。さらに、2階には最大8名が利用できる招聘者向けの研究室と会議室を設置しており、長期滞在者が集中して研究や議論を行うことができます。知の館は知のフォーラムの活動以外にも様々なワークショップやシンポジウムなどに利用されています。尚、知の館の整備にあたって、東京エレクトロン株式会社様より多大なるご支援をいただいており、知の館の英名をTOKYO ELECTRON House of Creativityと表記させていただいています。

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図2 知の館 3階講義室

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図3 知の館 1階ラウンジ

 

知のフォーラムの主な活動 - Thematic ProgramとJunior Research Program –

Thematic Programは横断的・学際的研究の創出や、人類が直面する課題の解決に資することを目的とした研究プログラムで、国際公募の中から年間3~4件を採択し、知の創出センターとプログラムオーガナイザーにより実施されています。Thematic Programでは、多様な分野の中から人類社会の問題解決を目的とした研究テーマを設定します。3ヶ月程度の実施期間の間に、その研究テーマを牽引する世界トップレベルの研究者を招聘し、国際シンポジウムの開催や共同研究などの学術イベントを通して議論を行うことにより、研究テーマの推進・解決を図ります。2017年度は「非線形偏微分方程式、その未知なる応用に向けて」「加齢科学の学際的展開〜分子から社会まで」「農免疫による食科学の新展開」の3件のThematic Programを実施しています。

Junior Research Programは、若手研究者のグローバルリーダー育成を主目的とした研究プログラムで、若手研究者がメインオーガナイザーとなります。Thematic Programと同様に、ある研究テーマについて1ヶ月程度の実施期間の間に、国際シンポジウムの開催や招聘者との共同研究などの学術イベントを通して研究テーマの推進・解決を試みます。2017年度は「ナノ構造磁性材料:次世代材料への挑戦」「日本・アジア・世界における危機と革新の政治的・社会的ダイナミクス」の2件のJunior Research Programを実施しています。

Thematic Program は最大1500万円、Junior Research Program は最大300万円の予算が割り当てられ、学術イベントの開催費用や研究者の招聘費用などに当てることができます。Thematic ProgramとJunior Research Programの申請は毎年4月初旬から8月末頃まで受け付けています(応募方法などの詳細は下部に記載のWebページを御覧ください)。

 

知のフォーラムのその他の活動

知のフォーラムでは上述のThematic ProgramとJunior Research Program以外にも、若手研究者を支援する活動やアウトリーチ活動も行っています。毎年11月にドイツのベルリンで開催される若手研究者等を対象としたプレゼンテーション競技会「Falling Walls Lab」の東アジア地域で初の予選会「Falling Walls Lab Sendai」を2014年からドイツのFalling Walls財団と共催で実施しています。また、アウトリーチ活動として高校生を対象とした学術イベントや著名研究者による一般講演会も行っています。2017年度はノーベル物理学賞受賞者である梶田隆章先生を招聘し、ニュートリノ研究に関する一般講演会を実施しました。その他にも様々な分野の学会や研究会との共催イベントを知の館で実施しています。

 

知のフォーラムの活動事例

知のフォーラムの活動事例として、2017年度に著者がプログラムコーディネーターを務めたThematic Programの「非線形偏微分方程式、その未知なる応用に向けて」(英名:Nonlinear Partial Differential Equations for Future Applications)について紹介します。本プログラムは4名のプログラムオーガナイザー;小池茂昭教授(東北大学)、小川卓克教授(東北大学)、坂口茂教授(東北大学)、小薗英雄教授(早稲田大学)によって組織され、主なイベントとして以下の4つの国際研究集会を開催しました。

  • Evolution Eq. and Mathematical Fluid Dynamics(2017年7月10日-7月14日)
  • Optimal Control and PDE(2017年7月17日-7月21日)
  • Hyperbolic and Dispersive PDE(2017年7月24日-7月28日)
  • Geometry and Inverse Problems in cooperation with A3 FORESIGHT PROGRAM(2017年10月2日-10月6日)

これらの国際研究集会の主な海外招聘者として、Prof. Robert Denk(University of Konstantz)、Prof. Wilfrid Gangbo(UCLA)、Prof. Michael Ruzicka(University of Freiburg)、Dr. Daniel Peralta-Salas(Instituto de Ciencias Matemáticas)、 Prof. Goran Peskir(University of Manchester)、Prof. Thomas C. Sideris(University of California, Santa Barbara)、Prof. Samuli Siltanen(University of Helsinki)、Prof. Andrzej Święch(Georgia Institute of Technology)を招聘し、3~5回の連続講義を行っていただきました(図4、図5)。また、経済学や工学などの分野からも著名な研究者を招聘し、数学と異分野融合研究についても活発に議論されました。これらの4つの国際研究集会には、海外招聘者36名を含む総計174名が参加しました。さらに、プログラム期間中に6名もの研究者が2週間から1ヶ月以上の長期で東北大学に滞在していただき、東北大学の研究者と共同研究を実施することができました。

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図4 Evolution Eq. and Mathematical Fluid Dynamicsでの連続講義風景(Prof. Robert Denk)

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図5 Hyperbolic and Dispersive PDEでの集合写真

 

 

今後の展開

東北大学 知のフォーラムは最初のプログラム実施から2017年10月で5周年を迎え、研究大学強化促進事業の中間評価では非常に良い評価をいただくことができました。今後は、知のフォーラムのさらなる発展のために、東北大学だけでなく他の国内外の大学や研究機関に向けても知のフォーラムの活動を発信し続けたいと考えています。2018年度は5周年記念イベントとして著名研究者による一般講演会や弦理論の国際研究集会「String-Math 2018」の開催などを計画しています。

 

東北大学 研究推進・支援機構 知の創出センター http://www.tfc.tohoku.ac.jp/