ラボラトリーズ

数学協働プログラムの紹介

2015年01月25日

伊藤 聡

いとう さとし

情報・システム研究機構 統計数理研究所

数学協働プログラムの背景と運営体制

平成19年度の独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」領域の設置、また平成22年度から始まった文部科学省と大学等の共催による「数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ(以下、「連携ワークショップ」という)」等により、数学・数理科学と諸科学・産業との協働による研究推進の気運が高まりました。科学技術の共通基盤の充実・強化のための重要課題として、数理科学を含む領域横断的な科学技術の強化は第4期科学技術基本計画等においても謳われているところです。

このような状況の中、数学・数理科学的な知見の活用による解決が期待できる課題の発掘から、諸科学・産業との協働による問題解決を目指した研究の実施を促進するため、文部科学省科学技術試験研究委託事業「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」(以下、「数学協働プログラム」という)が創設され、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構が受託、統計数理研究所が平成24年11月より実施しています。

また、平成26年度から開始された戦略目標「社会における支配原理・法則が明確でない諸現象を数学的に記述・解明するモデルの構築」では、現象を数学的に記述するモデルの導出、導出された数理モデルの実証・検証および評価のための数学的理論等の構築を目指し、これに基づいてJST戦略的創造研究推進事業「現代の数理科学と連携するモデリング手法の構築(CREST)」、「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働(さきがけ)」の両研究領域が新たに設置されました。

統計数理研究所は、数学協働プログラムの実施にあたって、外部有識者を含む24名により構成される運営委員会を設置し、関連学協会・大学等や諸科学・産業界の意見を運営に反映できる体制のもと、8つの協力機関(北海道大学数学連携研究センター、東北大学大学院理学研究科、東京大学大学院数理科学研究科、明治大学先端数理科学インスティテュート、名古屋大学大学院多元数理科学研究科、京都大学数理解析研究所、広島大学大学院理学研究科、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所)と連携しながら、諸科学・産業との協働による研究活動が我が国に定着し、積極的かつ自発的に拡大していくような基盤を形成することに貢献できるよう様々な活動を行っています。これらの活動については、日本数学会、日本応用数理学会、日本統計学会他の統計関連学会連合および科学技術振興機構とも協力しながら進めています。

数学協働プログラムの活動

数学協働プログラムでは、数学・数理科学的な知見の活用による解決が期待できる課題の発掘から、諸科学・産業との協働による問題解決を目指した研究を促進するため、ワークショップ、スタディグループ、チュートリアルの実施、作業グループによる活動などを実施しています。ワークショップとスタディグループについては、運営委員会において定めた6つの重点テーマ(①ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明、②疎構造データからの大域構造の推論、③過去の経験的事実、人間行動などの定式化、④計測・予測・可視化の数理、⑤リスク管理の数理、⑥最適化と制御の数理)のもとで一般公募を行い、運営委員会で審査の上、課題の採否を決定し実施しています。実施にあたっては、重点テーマ間のバランスを考慮するなど、事業の効率的実施にも努めています。

自由討議型のワークショップは、平成24年度は9件、平成25年度は10件を採択し実施しました。平成26年度は21件を採択し、実施もしくは平成27年3月にかけて実施予定です。平成26年度からは、特に若手研究者の応募や萌芽的な提案を奨励するため、比較的小規模のワークショップに対する奨励枠を新設しています。この奨励枠は、平成25年度まで実施された文部科学省と大学等の共催による連携ワークショップの後継という意味も兼ねています。

平成25年度からの新しい活動の一つとして、課題解決型のスタディグループの実施があります。これは産業界あるいは諸科学分野からの具体的な課題の提供に基づいて集中討議を行うもので、平成25年度は統計数理研究所および協力機関が中心となって7件実施し、特に企業の研究者が参加しやすい環境の整備を検討してきました。平成26年度はワークショップに合わせて公募も行い、運営委員会で審査の上採択して9件をこれまでに実施もしくは今後実施予定です。

また、諸科学・産業側からのニーズのある数学・数理科学の特定のテーマを選定し、特定分野の研究者に向けたチュートリアルセミナーも開催しています。平成25年度は特に産業界の研究者向けに、ビッグデータの概論から機械学習、グラフ理論、最適化の数理と実際まで、「ビッググラフと最適化」と題するチュートリアルを開催しました。ワークショップやスタディグループの開催にあたっても、数学・数理科学側あるいは諸科学・産業界側から、各集会のテーマに沿ったチュートリアルを実施するように推奨しているところです。

さらに、諸科学分野において数学・数理科学を活用することによる解決が期待できる課題や、ワークショップ・スタディグループで議論すべき課題の抽出を行うため、数学・数理科学研究者と協働相手となる諸科学分野(平成25〜26年度は材料科学および生命科学の2分野で実施)の研究者により構成される作業グループを設置しています。特に、材料科学作業グループでは、日本応用数理学会の平成26年度年会に合わせてワークショップ「数理科学の物質・材料科学への応用」を開催しました。

他の活動としては、中高生を含む一般に向けた啓蒙活動として、平成25年度は高校生による研究発表なども含むシンポジウム「世界は計算!されている?」を単独開催し、300名以上の聴衆を集めました。平成26年度はJSTのサイエンスアゴラ2014において、講演会「科学における発見、数学における発見」および展示「『創って動かす』生物研究〜数理科学とロボット工学からのアプローチ〜」を企画・実施したところです。また、数学者あるいは数理科学専攻の大学院生向けの活動として、日本数学会年会における「数学連携ワークショップ」の継続開催、また日本数学会社会連携協議会のキャリアパス構築活動への支援も行っています。産業界を対象とした活動としては、平成24年度のシンポジウム「数学・数理科学と共に拓く豊かな未来」の他、産業競争力懇談会や自動車技術会等の業界団体との意見交換、また諸科学分野に向けては、周辺学会や官公庁・公的研究機関との意見交換を継続的に行っています。

この他、数学協働プログラムでは、諸科学・産業との協働による研究の成功もしくは失敗事例を収集・整理するとともに、研究集会等の開催情報や各種公募などの関連情報、成功事例等の共有・発信を、協働研究情報システム1)、SNS(Twitter2)Facebook3))やメールマガジン「数学協働だより4) を通して行っています。数学協働プログラムを含めた統計数理研究所の取り組みについては、数学セミナー2014年10月号5)にも紹介記事があります。

参考文献

1) http://coop-math.ism.ac.jp/

2) https://twitter.com/CoopMath

3) https://www.facebook.com/CoopMath

4) http://coop-math.ism.ac.jp/info/ML

5)  統計科学に求められていること/統計数理研究所の役割とこれから,数学セミナー,2014年10月号(vol.53, no.10, 通巻636号),pp. 54-59,日本評論社