ラボラトリーズ

Sheffield便り

2023年03月17日

大木谷 耕司

おおきたに こうじ

京都大学 数理解析研究所

2006年9月から2021年3月まで、私はSheffield大学 数学数理統計学部に勤務した。Sheffiled 大学は、赤レンガ (red brick)として知られる北部新制大学の1つで、Leeds大学, Manchester大学などと同様に、ラッセルグループの一つである。

産業革命の頃、街は鉄鋼業で栄えたが、映画 “フルモンティ” で描かれているように後に衰退した。しかし現在は、Yorkshire地方の中心として、二つの大学の生徒たちの活気で溢れている。英国で最初の国立公園 Peak Districtを西に抱き、世界中からウォーカーが訪れる。緑豊かな丘陵に羊や牛、馬が草を食む。3人の子育てには恵まれた街であった。路面電車の通るWest Street には各国料理店が軒を連ねる。住民の気さくさは土地柄で、学生の満足度は非常に高く、卒業後も Sheffield を離れない学生も多く、定年後に戻って来る人もたくさん見た。

数学部のある建物は、初代学長(Vice Chancellor)の W.M. Hicks (1949-1934) にちなんでHicks ビルディングと呼ばれている。彼は、J.C. Maxwell の最初の学生の1人であり、流体力学を専門としていた。同じく流体力学の専門家の H. Lamb (1850-1934)と同世代の人物であった。

大学では、応用数学系の流体力学の部門を担当し、2人の講師やRAとともに研究、教育業務を担当した。英国で数学教室で行われる流体力学の研究は、物理の理論系に近い(英国の意味で応用数学)。流体力学は工学部においても盛んに研究されていて、共同プロジェクトや、セミナー等もしばしば企画された。主な外部資金の財源としてリサーチカウンセルのEPSRC (Engineering and Physical Sciences Research Council) がある。私も何度かグラントを獲得し、RAを採用したり、大学院生に博士号をだすことができた。日本とは異なり、通常の提案(いわゆるレスポンシブ・モード)は、年中いつでも受付けている。

教育面での義務(講義の総時間)は、日本の学部と同程度と思われるが、教育関連事務作業は重く付加されるように感じた。例えば、3段階にわたる定期試験問題の検査・改訂、試験後の5段階の卒業クラス判定会議、外部審査委員への対応、学期毎に複数回ある学生の授業評価への対応などが含まれる。工学部など他学部へ講義を提供しているため、そこでの会議へ出席するのも仕事の一つであった。2012-13年度にCameron首相の下、授業料が年額3000ポンド(約50万円)から 9000ポンド(約150万円)に一気に値上げされてから、学生からの要求も強くなり、講義にも工夫を凝らした。また、教務主任 (Director of Teaching) として、教育管理業務に深く携わった3年間は、多忙を極めた。

大学研究のランキングは4-5年に一度行われ、その準備および結果の解釈には、相当の時間と労力がかかっている。また、教育のランキング制度も既に導入が決まっている。先日、Sunak現首相が、すべての高校生に対し数学の必修年齢を18歳まで伸ばしたいと述べ、数学を重視していることは、非常に嬉しく明るいニュースである。

Firth Court (Sheffield 大学)
Firth Court (Sheffield 大学)