研究部会だより
機械学習研究部会の活動状況
2021年12月10日
佐藤 一誠
さとう いっせい
東京大学
機械学習とは,データからその背後に潜む知識を自動的に発見するための技術の総称である.
1980年代に人工知能の一分野として始まり,その後の計算機の劇的な性能向上と共に相まって飛躍的に発展してきた.近年の機械学習の技術は,確率論,統計学,最適化理論,アルゴリズム論などを数理的基礎にしており,画像,自然言語,音声,ロボット,生命情報,脳,医療など様々なデータの解析に用いられるようになった.
このように発展著しい機械学習分野の研究活動を更に促進するためには,基礎数理と実世界応用の研究者が密に情報交換を行うことが重要である.そこで,既存の学問分野の壁,及び,大学,研究所,企業等の組織の壁に捉われない形で機械学習に関する議論ができる場を設けることを目的として,2011年秋に機械学習研究部会 (JSIAM-ML) を設立した.
初代主査は東京大学の杉山将氏が務め,IBMの井手剛氏,京都大学の鹿島久嗣氏,名古屋工業大学の竹内一郎氏,東京大学の津田宏治氏,ベルリン工科大学(当時)の中島伸一氏が初代幹事に就任した.その後,2016年度に幹事団が若手に引き継がれ,名古屋工業大学の烏山昌幸氏,大阪大学(当時)の河原吉伸氏,東京大学の佐藤一誠,岐阜大学の志賀元紀氏が就任した.2020年に幹事団を編成し,東京大学の佐藤一誠を主査とし,筑波大学の五十嵐康彦氏,Googleの大岩秀和氏が2021年現在の幹事である.
本研究部会では,主な活動として年会におけるオーガナイズドセッションの開催をしてきた.特に,難関国際会議などで活躍している若手のトップランナーに講演を依頼し,機械学習の理論および応用における最先端の成果を広めるためにオーガナイズドセッションを企画を構成してきた.過去の発表者を見ても現在日本や世界で先導的に活躍している研究者であることが分かる.若手のトップランナーの最先端の研究を紹介するにはやはりまとまった時間が必要で,その研究分野全体の説明も含めて発表して頂きたいということから,2020年からは企画講演として35分の発表へと切り替えた.
2019年9月に東京で開催された本学会年会では,理化学研究所の園田 翔氏には「Barron評価を達成するニューラルネットの構成法」と題して特徴量写像の重み付き積分で表される学習モデル(浅い学習モデル)に対して,有限データから重みの推定と離散近似を同時に行う方法に関する話題をご提案いただいた.東京大学の二反田 篤史氏には,「識別問題に対する高次元ニューラルネットの勾配降下法の大域収束性と汎化性能解析」と題してNeural Tangent Kernel と呼ばれるニューラルネット由来のカーネル解析に関する話題提供をいただいた.東京大学の溝口照康氏には「機械学習を利用した結晶界面構造決定と物性の予測」と題して機械学習を活用した結晶界面構造および物性の解析とスペクトル解析に関してご提案いただいた.理化学研究所の大林 一平氏には「パーシステントホモロジーと機械学習の組み合わせによるデータ解析」と題してデータの特徴的幾何的パターンを発見する方法に関してご提案をいただいた.
2020年9月にオンラインで開催された年会では,この年に就任した本部会幹事の一人でもあり筑波大学の五十嵐 康彦氏には「スパースモデリングによるマテリアルズインフォマティクスと放射光データ解析への展開」と題して,物質・材料科学における機械学習の応用例をご紹介いただいた.国立情報学研究所の杉山 麿人氏には「機械学習への情報幾何的アプローチ」と題して,ボルツマンマシンに代表されるGibbs分布の学習や,テンソル分解,信号源分離など,様々な機械学習タスクに対する情報幾何的アプローチに関する話題を提供いただいた.
2021年9月にオンラインで開催された年会では,東京大学の片上 舜氏には「ベイズ計測 ~ 中性子散乱スペクトル解析への導入 ~」と題して,中性子散乱スペクトル解析におけるパラメータをベイズ推定することでその広がりを推定しその不確実性を評価する研究をご紹介いただいた.理化学研究所の田中 章詞氏には「Discriminator optimal transport」と題して,深層生成モデル特に敵対的生成ネットワークにおける識別器の役割を最適輸送の観点から分析し生成したデータの品質管理に役立てる方法に関する話題を提供いただいた.
機械学習研究部会では,今後も本学会会員に対して機械学習に関する有益な情報の提供を続けるとともに,学会内の関連分野と協調することにより,応用数理分野の更なる発展に資する予定である.