研究部会だより

「応用可積分系」研究部会の紹介

2020年03月04日

礒島 伸

いそじま しん

法政大学

「可積分系」とは,元々は古典力学の概念であり,何らかの意味で解くことができる非線形力学系の総称である.可積分系の概念は,ZabuskyとKruskalによる「ソリトン」の再発見以降およそ50 年の間に,十分な数の保存量をもち,初等関数や特殊関数を用いて解を書き下すことのできる,連続時間・離散時間,有限自由度・無限自由度,古典・量子の力学系に拡張されてきた.

上記の成果は,「ソリトン」あるいは「可積分系」をキーワードとして様々な数理分野の研究者が参入し,積み上げてきたものであり,この多様性が分野活性化の源となっていた.また,方程式とその解や保存量等を探求する数学的な成果から,数値計算をはじめとする種々の応用へと研究の拡がりが見られつつあり,多様な研究者グループが分野横断的に活動できる場が求められていた.

こうした中で,数学から応用数理への発展という可積分系研究の新動向を表す「応用可積分系」という言葉を,初代主査である中村佳正先生(京都大学)が提唱された.そして,日本の可積分系分野の多様かつ持続的な発展の礎となるべく,応用可積分系研究部会が2005年4月に設立された.

本研究部会設立からおよそ15年を経た現在では,「応用可積分系」は十分に市民権を得たと言える.典型的なテーマ例としては,離散可積分系である離散ロトカボルテラ系に基づいた高精度高速特異値分解アルゴリズムの開発・実装や,超離散可積分系である超離散Burgers系に基づいた交通流・渋滞の解析,可積分系理論に基づく可積分離散幾何学の構築等が挙げられる.このように様々な分野の研究グループが集まり,応用可積分系において理論研究と応用研究が渾然一体となって進んでいるのが本研究部会の特徴である.

 

本研究部会では,毎年,日本応用数理学会年会および研究部会連合発表会において3~4枠のオーガナイズドセッションを企画している.これらのセッションは応用可積分系分野の研究成果発表の場として定着し,また登壇者は大学院生等も多く若手研究者を育てる場として機能している.他に毎年主催・共催している研究会として,京都大学数理解析研究所におけるRIMS研究集会(9月),九州大学応用力学研究所におけるRIAM研究集会(11月)が挙げられ,どちらの研究会も参加者は70名前後である.RIMS研究集会では,1件50分程度の招待講演が十数件企画され,応用も含めた可積分系分野および関連の深い数理科学分野の最新の研究成果が紹介される.もう1つのRIAM研究集会は,数件の特別招待講演の他,公募形式の口頭発表およびポスター発表が多数企画されてきた.また,応用力学研究所から研究集会報告集を発刊していただき,とくに2011年以降は査読制度を導入して研究の質を高める役割を果たしてきた.この研究集会は,諸事情によって2020年度から場所を移すが,今後も同様の集会の企画を行っていく予定である.このような年会・研究部会連合発表会と研究会を中心とした,国内での年間を通した研究活動のサイクルがうまく循環している.

 

近年の特徴的な活動として,2017年度年会における正会員主催OS「戸田格子50周年:その意義と発展」の企画がある.このセッションは,可積分系の理論および応用の発展に大きく貢献した戸田格子の発見50周年を記念して企画したものであり,7件の招待講演で構成された.当日は会場満席となり,参加者の応用可積分系に対する関心の高さがうかがわれた.

また,国際的な活動としては,2016年の年会において梶原健司氏(九州大学)が窓口となってJSIAM-ANZIAM特別オーガナイズドセッションを企画し,ANZIAM側から3件,JSIAM側から4件の7件の講演が行われた.さらに,2018年11月には,同じく梶原氏をはじめとする当研究部会の運営メンバーが中心となって国際研究集会「The 13th Symmetries and Integrability of Difference Equations」(SIDE13,http://side13conference.net/)を主催した.当該研究集会は福岡市のJR博多シティ会議室にて開催され,多数の外国人研究者を含む142名が参加し,口頭発表51件,ポスター発表47件が行われた.このように,可積分系分野は世界的にも活発に研究されており,当研究部会はその一角を担うグループとして活動を続けている.

 

可積分系分野の基礎内容については,当研究部会のメンバーも執筆した

・『応用数理ハンドブック』,薩摩順吉,大石進一,杉原正顯 編,朝倉書店,2013 年.

・『解析学百科II 可積分系の数理』,中村佳正,高崎金久,辻本諭,尾角正人,井ノ口順一著,朝倉書店,2018 年.

などを参照されたい.また,各研究集会の内容および詳細なプログラム等については「応用可積分系研究部会HP」を,2015年以前の活動状況については過去の『研究部会だより』を閲覧いただければ幸いである.

 

参考URL・文献:

応用可積分系研究部会HP:http://ais.jsiam.org/

応用可積分系研究部会メーリングリスト参加登録方法:http://ais.jsiam.org/ais-j/ml-j.html

2009年以前の活動状況:応用数理,Vol.20,No.1,2010.

2015年以前の活動状況:JSIAM Online Magazine,[Article: I1410A].