研究部会だより
「CAEモデリングとデータ活用」研究部会
2019年06月07日
山田 知典
やまだ とものり
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻
本研究部会の前身は1998年12月に発足した「メッシュ生成研究部会」である。ちょうど20年の節目を迎えた2018年に名称を「CAEモデリングとデータ活用」として新たな活動を始めた。本稿では1998年当時を振り返り、それと比較した現在の状況、本研究部会の狙いについて述べる。まずは、1998年の発足当時の状況が応用数理の記事[1]にあるので、少し引用させていただく。
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有限要素法などの前処理として必要なメッシュ生成技術は、1997、1998年に行われた本学会の「数理科学の産業応用」調査研究部会の報告書において、本学会として今後力を入れるべき分野の一つに指摘された。実際、有限要素法の計算自身は数時間から数日でできるのに、それに必要なメッシュの生成は人手によって1ヶ月から3ヶ月もかかることが少なくない。この報告書を受けて、1998年12月に矢川元基東京大学教授を主査とする「メッシュ生成研究部会」が発足した。その目的は、メッシュ生成技術の現状について調査するとともに、欧米に押されがちなこの分野を支援するために国産の新しいメッシュ生成技術の開発プロジェクトを産と学の共同で立ち上げることであった。
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当時、矢川研究室の大学院生であった私も何度か研究部会の会合に出席させていただき、活発な議論が行われていたのを記憶している。1990年代後半は大手自動車メーカー等による汎用3次元CADソフトウェアの導入とCP-PACSやSR2201に代表される国産スーパーコンピュータ等の計算機性能の向上に伴い、製造業におけるCAEの適用範囲は格段に拡大していた。特に3次元CAEのためのメッシュ生成技術の高度化は世界的にも注目を集めており、メッシュ生成手法の議論のみならず、(主に)き裂進展解析を対象としたメッシュレス法、自由表面を有する流れ解析を対象とした粒子法などの新しい潮流が生み出されていた。これらの技術は「メッシュ生成研究部会」の狙い通り、産学連携の末、(株)アライドエンジニアリングによるADVENTURECluster、プロメテック・ソフトウェア(株)のParticleworksなど国産CAEソフトウェアとして結実し、現在では国際的にも高い競争力を持ったソフトウェアとして認知され、産業界に広く受け入れられている。
一方で、CP-PACS(600GFLOPS)から地球シミュレータ(40TFLOPS)、「京」コンピュータ(10PFLOPS)と計算機性能の向上はとどまるところを知らず、原子力施設の丸ごと耐震シミュレーションのように、解析対象はさらなる大規模化・複雑形状化・複合現象化にさらされており、メッシュ生成にかかる期間はそのモデルの妥当性検証も含めて20年前以上に長期間化している。加えて、近年のAI技術の発展により、CAEを学習データの生成器として利活用する、さらには学習済みのAIでCAEを置き換えることへの期待が高まっている。そこで本研究部会ではメッシュ生成のみならず、メッシュフリー法を含めたCAEモデリング技術全般の高度化と、AIとの連携・融合を指向したCAEデータ活用の推進を目的として活動を行うこととした。
さて、CAEとAIの融合についてはまだ始まったばかりである。このため、幹事である近畿大学和田義孝教授、日立製作所片岡一朗氏、中央大学森口昌樹准教授、そして会員の皆様と協力しつつ着実に進展させていく必要がある。ご賛同いただける多くの方の参加をお待ちしている。
[1] 矢川元基, 杉原厚吉, 江澤良孝, メッシュ生成研究部会活動報告(研究部会だより), 応用数理, 12巻, 1号, pp.91-92, 2002.