研究部会だより

「科学技術計算と数値解析」研究部会とつらつら惟ること

2018年10月20日

山本 野人

やまもと のびと

電気通信大学

1. 当研究部会の成り立ちと理念

「科学技術計算と数値解析」研究部会は、日本応用数理学会に研究部会制度ができた当初からの部会である。設立は加古孝教授(電気通信大学(当時):現名誉教授)による。設立趣旨には、その理念が次のように述べられている。
『科学技術計算は、コンピュータの急速な発達に伴って、これからの人類の活動のあらゆる側面で重要な役割を果たし続けていくと考えられる。 特に、未知の現象の「予測」と新たな工学的対象の「設計」と「制御」は「科学技術計算」が取り扱うべき中心的な課題であり、適切な「数理モデル」を出発点とする、正しい「計算アルゴリズム」に基づく「科学技術計算」が求められている。 また、計算結果の正しさを検証し、新しい手法を生み出すためには「数値解析」が不可欠な研究課題である』
主査は、加古教授の後を杉原正顯教授(東京大学(当時):現青山学院大学教授)が継ぎ、現在は筆者が担当している。

2. 現在の活動状況

年会と部会連合発表会では少なくとも2セッションにまたがるオーガナイズドセッションを行い、年末には、「計算の品質」、「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会とともに、「三部会連携応用数理セミナー」を開催している。また部会関連のセミナーとして、東大数値解析セミナー(齊藤宣一教授(東京大学)と松尾宇泰 教授(東京大学)の主催)があり、すでに100回を超える開催回数となっている。これらの詳細は、
「科学技術計算と数値解析」研究部会 http://www.sr3.t.u-tokyo.ac.jp/scna/
東大数値解析セミナー(UTNAS) http://www.infsup.jp/utnas/
齊藤教授による前回の研究部会だより https://jsiam.org/online_magazine/news_presentations/3509/
を参照されたい。

3. 研究部会のあり方について思うこと

近年は、年会および部会連合発表会共に15件程度の講演申し込みがあり、活発な状況と言える。ただし、発表テーマに関しては研究分野に偏りがあるように見受けられる。この傾向は、当部会と人的な繋がりのある数値解析シンポジウム(NAS)においても感じられ、主査としてはその打開を図りたいと考えているところである。しかしながら、その原因は思ったよりも深いところにあるのかもしれない。これを探るには、数値解析を取り巻く状況の変化にもっと目を向けるべきだろう。以下に若干の想いを述べたい。

上述の理念には、「適切な数理モデル」「正しい計算アルゴリズム」という言葉が現れる。これらが数値解析の基盤であることは変わらないが、我々が直面している数値解析の様相はこれらの言葉で包含できる範囲を超えてしまっているように感じられてならない。機会があるごとにいろいろな方に意見を伺うのだが、その中には次のようなものがある。
「数値解析は、古典的な自然科学の対象を扱い続けるだけではその意義を保つことはできない。例えば、
・データサイエンス(テンソル分解、大規模最適化における線形計算、モデル縮減、データ同化、ニューラルネットにおける関数近似等)
・最先端の計算科学(イメージング、超複雑系のマルチスケールシミュレーション、数理生物(タンパク質の構造推定等を含む)、複雑なジオメトリ上でのシミュレーション等)
などに適応し、これらの発展に寄与する研究をも志向していくべきである。」
このような意見に照らせば、自然科学の対象を扱うことで培ってきた「適切な」「正しい」計算手法をそのまま拡張していくのではなく、別の観点も取り入れて数値解析のあり方を多様化させる必要があるのではないかと思わされる。

こんな想いを抱えたまま、2018年度の年会で開催された研究部会連絡会に出席した。席上で、感じているわだかまりを話し、「若手の会」などを中心にした研究部会全体の活性化について思うところを述べた。反響としては、各部会の主査・幹事が問題意識を共有できるのではないか・講演内容の「偏り」が少なくなるようにプログラム編成で工夫できるのではないか、といった意見が寄せられた。年末の「三部会連携応用数理セミナー」の共催を三部会以外に広げるなどの提案もあった。まずは研究部会の連帯でできることを探るのが一つの道だろう。

もう一つ、ある意味で前述した意見と反対の方向に翼を伸ばすことになるのかもしれないが、日本数学会応用数学分科会との協働を進めることも図りたい。個人レベルでの交流は活発なのに、研究会レベルでは一種の住み分けがなされているような状況はなんとか打破したいと思っている。現代の科学技術計算・数値解析のあり方を見極めるためには、様々なレベルでこれに関わる人々の連携を強めることが何より重要だと考えるからである。

いつのまにか、研究部会だよりの趣旨を超えた文章になってしまった。このあたりで筆を擱くことにしよう。