研究部会だより
「応用可積分系」研究部会の紹介
2023年10月05日
上岡 修平
かみおか しゅうへい
大阪成蹊大学
可積分系(integrable systems)は,元々古典力学の概念であり,何らかの意味で解くことのできる非線形力学系の総称である.可積分系の概念は,1965年のZabuskyとKruskalによるソリトンの再発見から50年余りの間に,保存量を十分な数だけ持ち,解を初等関数や特殊関数で書き下せる,連続時間および離散時間,有限自由度および無限自由度,古典および量子の力学系へと拡張されている.
応用可積分系(applied integrable systems)は文字通り,可積分系という数学の概念を他分野に応用するという趣旨の言葉である.保存量や解といった可積分系の持つよい性質を,数値計算など他分野の問題に応用する.こうした可積分系の応用研究が生まれていく中で,数学から応用数理への発展という,可積分系研究の新しい動向を表す「応用可積分系」という言葉が,本研究部会の初代主査である中村佳正氏により提唱された.そうして,日本の可積分系研究の多様かつ持続的な発展の場として,応用可積分系研究部会が2005年4月に設立された.
本研究部会設立からおよそ20年を経た現在,「応用可積分系」は十分に市民権を得たと言える.典型的な研究テーマとして,離散ロトカ・ボルテラ方程式や離散戸田方程式に基づく行列の固有値・特異値分解アルゴリズムの開発,超離散バーガーズ方程式など超離散可積分系に基づく交通流やセルオートマトンの解析などが挙げられる.その他,可積分系のアイデアに基づく応用研究,また将来的に応用につながることが期待される萌芽的な理論研究も多く行われている.応用可積分系研究部会では,様々な分野の研究者が集まり,応用と理論の研究を渾然一体となって進めている.
日本応用数理学会の学会イベントにおける,最近の活動状況について述べる.本研究部会では毎年,9月の日本応用数理学会年会,および3月の同研究部会連合発表会において,オーガナイズドセッション(OS)を毎回企画・開催している.近年では,各回講演枠数の上限に近い15件前後の講演希望があり,盛況なイベントとなっている.特に,登壇者の中には大学院生を含む若手研究者が多く,当分野の若手研究者を育成する場として機能している.直近2年間の年会では,重富尚太氏(講演題目「捩率一定空間曲線およびtorsion angle―定空間離散曲線に対する楕円テータ函数による明示公式」,2021年度)と西田優樹氏(講演題目「優対角なmin-plus行列の上三角化とその交通流モデルへの応用」,2022年度)の2名が,OSでの講演について年会若手優秀講演賞を受賞している.
学会イベント以外で,本研究部会が主催・共催する主な研究集会について述べる.本研究部会は,例年8〜9月に京都大学数理解析研究所で開催される可積分系分野の研究集会(RIMS研究集会)に参画している.また,例年10〜11月に会場持ち回りで開催されている同分野の研究集会(秋の研究集会)は,本研究部会のメンバーが中心となって企画・運営を行っている.RIMS研究集会では,1件50分程度の招待講演が十数件企画され,可積分系および関連する数理科学分野について,応用も含めた最新の研究動向が紹介される.秋の研究集会は,公募形式の十数件の口頭発表(1件30分程度)とポスター発表を中心としたイベントであり,可積分系および関連分野の研究者が集まって最新の研究成果を紹介し合う交流の場になっている.秋の研究集会は,2017年度まで九州大学応用力学研究所で開催されていたイベントを引き継いだものであり,2020〜2021年度はオンライン(津田塾大学,久留米工業大学)で,2022年度は久留米工業大学(対面とオンラインのハイブリッド開催)でそれぞれ開催した.2023年度は富山県立大学にて開催予定であり,今後も同様の研究集会を企画していく予定である.
応用可積分系研究部会では,日本応用数理学会の学会イベントやここで紹介した研究集会などを中心とした交流が,国内での年間を通した研究活動の基盤になっている.近年では,2020年初からの新型コロナウイルス感染症の荒波を受けて,多くのイベントが中止や開催方法の変更を余儀なくされた.その中でも,本研究部会がしぶとく活動を継続することができたのは,ひとえに学会および研究集会などの実施のため,またその作業を支えるためにご尽力くださった多くの関係者のおかげである.この場を借りて深く御礼申し上げる.
応用可積分系の基礎内容については,本研究部会のメンバーも執筆した次の書籍などを参照されたい.
・『応用数理ハンドブック』,薩摩順吉,大石進一,杉原正顯編,朝倉書店,2013年.
・『解析学百科II 可積分系の数理』,中村佳正,高崎金久,辻本諭,尾角正人,井ノ口順一著,朝倉書店,2018 年.
学会イベントや研究集会の詳細について,また情報交換のためのメーリングリストへの参加方法については,応用可積分系研究部会ウェブページ(http://ais.jsiam.org/)をご閲覧いただきたい.