学会ノート
JOMの今後について
2024年06月19日
齊藤 宣一
さいとう のりかず
東京大学大学院数理科学研究科
オンラインマガジン形式の会誌として、日本応用数理学会会員だけでなく広く応用数理に興味のある方々に親しまれてきた、JSIAM Online Magazine (JOM)が、その役目を終え、記事の更新を完全に停止することになりました。2023年10月以降、すでに記事の更新がなされていないことに、お気づきの方も多いと思います。この記事では、JOMの記事更新を停止するに至った経緯、JOM記事の今後の公開方法などについて、学会の総務担当理事の立場からの記録を残しておきたいと思います。
JOMは、2012年12月に、それまで学会誌『応用数理』に掲載されていた「ラボラトリーズ」、「学術会合報告」、「研究部会だより」、「学術会合報告」、「書評」を、オンラインマガジンとして公開するための学会の正式な雑誌として発行されました。その経緯については、当時、学会誌の委員長であった櫻井鉄也先生の記事「JSIAM Online Magazine誌の発刊について」(『応用数理』22巻4号、2012年)をご覧ください。実際、JOMの速報性やウェブでの記事公開は、時代に合っておりましたし、便利でした。カラー写真をいくらでも掲載できるため、特に、「ラボラトリーズ」や「学術会合報告」では、より臨場感のある記事を掲載することができました。
実は(これまで、あまり強調されてこなかった印象がありますが)、このJOM創刊の理由の一つには、学会の経費削減の目的もありました。当時、学会誌は、学会が編集し、岩波書店が発行と販売をするという形をとっていました。そして、学会は、岩波書店が発行している学会誌『応用数理』を会員数だけ購入していました。細かい金額をここでは書きませんが、おおよそ、学会の年間の予算の半分くらいが、この学会誌の購入経費に充てられており、学会の財政を大いに圧迫していました。そこで、当時の編集委員長の櫻井先生と、副委員長を務めていた荻田武史先生、中口悦史先生が、岩波書店と交渉して、1冊あたりの単価を下げてもらうことに成功しました。ただし、そのために、学会誌のページは毎号48ページで固定することを約束しました。結果、それまで掲載されていた一部の記事を載せる余裕がなくなり、JOMの創刊が検討され始めたのです。これが2011年から2012年春頃の話です。もちろん、経費削減目的のみで消極的にJOMを創刊したわけではなく、オンラインマガジンという新しい形式に大きな可能性を感じた上での決断でありました。ただ、ページ制限のあった時期には、論文が1号につき、2本程度しか載せられないため、結果的に、特集が組みにくくなりました。また、48ページではボリュームがあるようには感じられず、それ以前の分厚い学会誌と比較して、少し残念な気も(私個人は)していました。
もう一つ、JOMを語る上で避けて通れないのが、その公開システムについてです。実は、JOMのシステムは、公開だけでなく、記事の依頼、投稿、査読校閲の作業を行える総合的な編集システムでした。2012年当時(あるいは現在でも)、これらを安定に行える(かつ学会で購入可能な価格の)ソフトウエアは存在しておりませんでした。そこで、ネットワーク委員会の協力を得て、システムを自作することになりました。その作業の中心(というより全て)は、山中脩也先生でした。実際、山中先生の作成したシステムは、大変優れており、記事の公開だけでなく、編集作業の効率化にも大いに寄与してくれました。その後、学会誌本体の編集にも、このシステムを利用することになり、それまで原稿を郵送でやりとりしていた編集作業が完全に電子化され、大きな効率化につながりました。こう書くと、簡単そうに感じるかもしれませんが、学会誌本体の編集にも対応できるように、システムを拡張することは、大変な作業で、山中先生のご尽力は、私の想像できないものだったと推察します。
さて、そうやって10年以上、JOMで安定的に記事の公開を続けてきましたが、ここ数年で、学会に大きな変化がありました。すなわち、学会誌が、2022年3月(32巻1号)から、岩波書店からの発行をやめ、本学会が発行する形になったのです。組版、印刷、販売は、現在、事務局業務を委託している株式会社国際文献社にお願いすることにしました。これにより、「48ページ」という縛りがなくなり、記事を自由に増やせることになりました。また、編集システムを用いて行なっていた学会誌の編集作業(特に事務的な部分)も、国際文献社に委託しました。したがって、編集システムの保守更新をする必然性が薄れてきました。実際、2022年4月に、学会ウェブが全面リニューアルされましたが、このとき、JOM記事の公開のみも、新ウェブでも行えるようにしました(現在、記事はすべてこの新ウェブに移行済みです)。詳しくは、拙稿「学会ウェブのリニューアルについて」をご覧ください。このまま、新ウェブでJOMの公開を継続しても良かったのですが、せっかくページ数の制限がなくなったので、JOMに移行していた記事を、改めて学会誌に戻してみてはどうか、という意見が理事会内で出ました。そこで、学会誌編集委員長の野津裕史先生と副委員長の水野将司先生に、編集委員会内で検討していただくことをお願いしました。そして、結果として、2023年までJOMに掲載されていた「ラボラトリーズ」、「学術会合報告」、「研究部会だより」、「学術会合報告」、「書評」を、2024年3月発行の34巻1号から、学会誌本体に戻すということが決まりました。
オンラインマガジンと比べると速報性は相当に落ちてしまいますが、学会誌もJ-Stage上でPDF形式の記事が閲覧とダウンロードでき、記事を広く多くの方に伝えるという意味では、遜色はないと思われます。何より、学会誌が、以前の重厚な形を取り戻す良いきっかけになるのでは、と期待しています。
良い機会なので付記しますが、近年の学会理事会は、外部委託できることはなるべく委託し、学会員が学術的な活動に集中できるようサポートすることを方針としています。そのための予算計画や会計管理は重要ですが、一方で、学会の経費削減を、学会員によるボランティアに求めることは意識して避けています。例えば、学会誌だけでなく、JSIAM Lettersの編集作業も国際文献社に委託しています。また、学会ウェブは、それまでネットワーク委員会の手作りで運営されてきましたが、新ウェブは、株式会社想隆社に開発と保守を委託しています。ただし、コンテンツの更新のみ、総務委員会広報係が輪番で対応しています。
随分くどくなってしまいましたが、JOMの誕生と終了までの経緯、およびJOM記事のこれからについて述べました。もちろん、私、齊藤宣一から見た景色を書いただけなので、別の方には異なる見え方をしていたかもしれません。すなわち、以上の文章の責任は、私のみにあります。
本記事が、JOMの最後の記事になると思います。一方で、すでに、JOMで公開されている記事は、今後も、半永久的に公開され続けます。
いままで、JOMに寄稿してくださった方々、編集に携わってくれた方々、システムの開発・維持に労力を払ってくださったすべての方々に、あらためてここで感謝したいと思います。
以上