学術会合報告

2021年度応用数学合同研究集会参加報告

2022年03月22日

渡邉 扇之介

わたなべ せんのすけ

福知山公立大学

2021年12月17日(金)~19日(日)に,2021年度応用数学合同研究集会が開催された.この研究会は例年,龍谷大学瀬田キャンパスで開かれていたが,昨年度と本年度はコロナ感染症の影響でオンラインによる開催となっている.本年度のオンライン開催はzoomウェビナーを用いており,全体の進行やzoom管理を外部に委託していたと思われ,非常にスムースな進行が行われていた.研究会は大きく2つのセッション「離散系」と「解析系」に分かれており,私は離散系のセッションに参加した.

 

初日と2日目はグラフ理論の話題が豊富であった.初日では,湘南工科大学の中上川先生のご講演「幾何グラフの展開と0-1ヤング図形」が大変興味深かった.円周上に頂点を配置し,それらを結ぶことでできる無向グラフを幾何グラフと呼び,幾何グラフにおける交差する辺が非交差になるような幾何グラフを生成することを展開と呼んだ.全ての辺が非交差である幾何グラフへの展開を考えると,その非交差幾何グラフの重複集合は一意に決まり,その位数を展開数と呼ぶ.本ご講演では,幾何グラフの展開数と0-1の状態を持つヤング図形の個数が一致する条件を明らかにされた.条件を詳細にフォローすることはできなかったが,交差辺の展開の組合せとヤング図形の組合せが対応づくことは,グラフやヤング図形の応用範囲の広さを改めて知ることとなった.

 

2日目においては,琉球大学の山本先生のお話しが非常にシンプルでおもしろく,3次元の整数ベクトルであって30°45°60°といった三角関数の値が容易に求まる角度をもつベクトルの特徴について述べられていた.結果としては,ある2次の楕円曲線上の有理点を求める問題に帰着でき,具体的な構成法も得られていた.この研究はベクトル解析の授業において練習問題を作成する際に思いつかれたようで,たしかに私自身も学生に優しい,採点者にも優しい解をもつ問題を作ることに苦労はしているが,まさかこのような興味深い研究に繋がるとは思ってもおらず,ただただ億劫に感じながら授業資料の作成したことを深く反省させられたご講演であった.また,北里大学の古谷先生のご講演「cover/partition number に見る不変量版ラムゼー問題」も興味深い内容であった.禁止グラフやラムゼー問題について恥ずかしながら私は知識をもっておらず,講演の詳細を理解することはできなかったが,グラフ上の問題を考える際によく言われる「有向グラフは難しい」について,グラフの不変量の言葉でその困難さを説明されている結果が示されていた.2日目の講演終了後にはビデオチャットツールのSpatialChatを用いた懇親会が開催された.

 

最終日では,max-plus代数や量子ウォークに関する講演があり,この研究集会の最後のご講演であった小山高専の佐藤先生のご講演「Vertex-Face/Zeta correspondence」が大変興味深かった.この内容は1つ前の広島大学の小松先生のご講演「Walk/Zeta 対応」に続くものであり,数論で有名な伊原ゼータ関数と量子ウォークをグラフ上で議論したときの対応について述べられていた.グラフの閉路を面と呼び,時間発展が「頂点または面を共有する辺」で発生するようなウォークモデルを考えたとき,2次元トーラスでのゼータ関数を導出された,と私は理解した.前提知識を多く必要とし,たくさんの計算が行われていたためフォローすることは難しかったが,明らかにトポロジーからの出自であろうグラフに対しても性質の良い量子ウォークを作ることができることは驚きであった.佐藤先生は私がこの研究集会に参加するきっかけを作っていただいた先生であり,退官されてからも第一線で活躍される姿を拝見すると「もっと研究しろ!」と叱咤激励していただいていると,勝手ながら励みにさせていただいている.

 

上述させていただいた以外のご講演もどれも非常に興味深いものばかりで,たくさんの勉強をさせていただいた.この2年,種々の学会・研究集会はオンラインで開催され,運営の方々の大変な努力によって,学術研究はコロナ禍においても停滞することなく前進を続けている.遠隔開催しか選択肢がない情勢になったことで,移動コストがないことや,初めてのコミュニティへの参加や学生の参加などの意味でも気軽に参加できることなどの遠隔の恩恵を私たちは身をもって知ることになった.それでも私は,全く知らない分野の知識や自分では見えなかった視野からの見解を「面接(対面)」で議論していた,いつもの学会に戻りたい.多くの学会・研究集会では参加者は増えたように思うが,質疑を含めた議論は少なくなったように感じる.例年は議論が絶えることのない,この応用数学合同研究集会も本年度はその例に漏れなかったように思う.様々な分野におけるユニークな結果をもって龍谷大学に集まり,新しい知識に対して貪欲で寛容な議論を行い,新しい研究が始まる,そんないつもの応用数学合同研究集会にまた参加できる日を楽しみに,本報告を終えたい.