学術会合報告

2021年度 武蔵野大学 数理工学シンポジウム

2022年03月24日

佐々木 多希子

ささき たきこ

武蔵野大学

本稿は2021年11月16日,17日の2日間にかけて開催された武蔵野大学数理工学シンポジウムについて報告するものです.

最初に,武蔵野大学数理工学シンポジウムを主催する「武蔵野大学数理工学センター」について紹介させて頂きます.2015年4月に武蔵野大学 工学部 数理工学科が開設されました.数理工学科は「数理工学の専門能力を身につけ,持続可能な社会構築に向けて主体的に参画する人材,例えば自然現象や社会現象をモデル化して理解し,システム設計に応用することができる人材や,蓄積されたデータ同士の相関関係などを分析し,問題の本質を捉えた上で課題解決できる人材(データサイエンティスト)を育成する」ことを目的とした学科です.学科開設と同時に研究拠点として設置したのが,数理工学センターです(数理工学センターHPより抜粋).数理工学シンポジウムは,数理工学センターが設置された2015年より,数理工学センター主催で毎年開催され,今年で7回目の開催となりました.数理工学シンポジウムは,数理科学の現実への応用に関する多彩なテーマの講演により,数理工学の進展を俯瞰するとともに研究の交流を図ることを目的に掲げています.

今年度の数理工学シンポジウムは武蔵野大学有明キャンパスとzoomのハイブリット形式で開催されました.昨年度はコロナウイルス感染拡大の影響でオンライン開催,一昨年は台風の影響で二日間の開催予定が一日に短縮され,ハイブリッド形式ではあるものの,有明キャンパスの会場で二日間続けて開催するのは2年ぶりとなりました.講演数は10件(各60分)で,約140名(会場参加は約15名)の参加がありました.今回,参加者の多くはオンライン参加だったものの,多くの講演者の方々に会場にお越し頂き,活発な議論が行われました.休憩時間には講演者,参加者で雑談する様子が見られ,対面での研究集会の良さを再確認することができました.また,修士課程の学生を中心に,十数名の学生が会場でアルバイトをしながらシンポジウムに参加し,対面での研究集会を経験することができました(本学では昨年度に続き,今年度もイベントはオンライン開催が多かったため,ほとんどの学生が対面での研究集会は初めてでした).

講演テーマは統計物理の観点からスポーツの解析,大規模系電子構造のダイナミックスと大規模行列の固有値・固有ベクトル計算,量子コンピュータ,計算ホモロジー,機械学習や生命システム,心血管及び呼吸器領域の疾患に対する数理など多岐にわたりました.講演者の方々には入門的な話から研究の最先端までお話頂き,参加者には様々な研究テーマに触れる機会になったと思います.

10件の講演の中の一つを紹介いたします.著者の研究と関係があるものとなってしまいますが,ご容赦ください.1日目の最後のセッションに,University Sorbonne Paris NordのHatem Zaag先生に「Classification and construction of blow-up solutions for the standard semilinear wave equation」というタイトルでご講演いただきました.波動方程式は有限伝播性という性質を有することから,解が有限時間で爆発する場合,解が爆発する時刻が場所に依存することが知られています.この爆発時刻と場所を記述する曲線(空間多次元の場合は曲面)は爆発境界と呼ばれます.爆発境界はその滑らかさ,特に微分ができるかできないかという観点から研究されてきました.Zaag先生はこの爆発境界の数学解析や数値解析に関する結果の歴史的レビューや,ご自身の研究成果を紹介されました.特に,空間2次元の波動方程式の爆発境界がピラミッド型となる,1次元の拡張とは言えない結果を提示されました.フランスと日本には8時間の時差があり,日本では夕方のセッションでしたが,フランスにお住まいのZaag先生には朝早い時間に講演をして頂くこととなりました.この場をお借りして,Zaag先生に深くお礼申し上げます.

今年度もコロナ禍での開催となりましたが,無事にシンポジウムを終了することができました.講演者の皆様,ご参加頂いた皆様には心よりお礼をお申し上げます.来年度以降も数理工学シンポジウムは毎年開催する予定です.来年度以降は是非,多くの皆様に武蔵野大学有明キャンパスにお越し頂けたらと思っております.