学術会合報告
2018年度応用数学合同研究集会に参加して
2019年02月02日
飯田 渓太
いいだ けいた
東京大学 生産技術研究所 定量生物学研究室
学会名:2018年度応用数学合同研究集会
期間:2018年12月13日(木)〜12月15日(土)
開催地:龍谷大学瀬田キャンパス
当該研究集会は3日間にわたり開催され、離散系51題、解析系55題と、いずれも最近10年では最大の演題数となった(図1)。予稿集も充実しており、総ページ数は約600頁である。発表は全て口頭形式であり、発表時間は質疑応答を含め1名25分であった。会場は離散系と解析系で分かれているが、全日程を通じて同じ大会議室が使用される。発表者にとっても聴講者にとっても、極めて良い環境が用意されるのである。これほどの研究集会が、もう30有余年も継続しているのは、ひとえに数学界の発展に尽力されてきた先駆者達の努力の結果といえる(一松信, JSIAM Vol. 15, 2005)。
筆者は、解析系の全てのセッションに参加した。また、自身も確率論を用いた生物学的問題へのアプローチについて発表した。本報告では、当会における解析系の内容や雰囲気について、感じたことや気がついた点を述べる。なお、筆者は10年前の2008年、初めて応用数学合同研究集会に参加した。当時は修士課程の学生であったが、会の雰囲気を鮮明に記憶しており、講演タイトルも思い出せる。刺激的な会であった。
はじめに、2008年と2018年の講演内容を比較してみる。2008年は、波動、流体、拡散などの物理現象を背景とする微分方程式の数値・理論解析が主であり、続いてもう少し抽象的な方程式論、そして現象の数理モデル、といった内容であった。2018年は、現象の数理モデルが主であり、続いて力学系の計算機援用解析、そして種々の計算法の開発、ホモロジーや多様体を用いた幾何学的研究、機械学習、制御理論などがあり、演題数の増加とともに講演内容の多様化と学際化が進んでいた。この中で、生物学の数理モデルを含む講演が多かった点は、参加者も気がついたと思う。これは、実験技術の向上が関係している。
次に、会場の様子を述べる。全日程を通じて、会場はほぼ満席であった(図2)。ただ、最終日の午後は人数が減った。以前と比べ、若手研究者の割合が増したように感じた。質疑応答では毎回質問があり、聴講者の熱意が伝わってきた。演題数が多く、消化不良もあったことと思うが、発表者としては、どのような質問であっても興味を持ってもらえることはこの上なく嬉しいものである。活発な議論に参加された方々に発表者の一人として心から謝意を述べたい。
2008年の応用数学合同研究集会は筆者にとって極めて刺激的であり、研究者への憧れ、一流の研究者と議論したいという想いが燃焼し始めた瞬間でもあった。2018年はどうだっただろう?ベテランの研究者はどう感じられただろうか?学生は刺激を受けただろうか?今回、様々なテーマの中で現象や方程式が紹介されたが、本質的な部分では共通項が多かったように思う。対象は古典的な方程式でも良い(かもしれない)。むしろ、そこから新規知見を得るためにどう工夫したのかについて議論するのも、研究集会の醍醐味かなと思う。そう考えると、今日の解析基盤を構築した先駆者に敬意を表さずにはいられない。
来年は、参加者の年齢層、および基礎と応用の研究発表が偏ることなく、より活発になることを願っている。最後になったが、今年の応用数学合同研究集会を支援し、運営して下さった関係者の皆様に、心から感謝申し上げたい。