学術会合報告
研究集会「非線形波動から可積分系へ」参加報告
2021年02月02日
西田 優樹
にしだ ゆうき
同志社大学
2020年11月7日(土)~8日(日)に開催されました,津田塾大学数学・計算機科学研究所オンライン研究集会「非線形波動から可積分系へ」の参加報告をいたします.本研究集会は,昨年度まで九州大学応用力学研究所の共同利用研究集会として毎年開催されていた非線形波動に関する研究集会の後継にあたるもので,本年度より各大学の持ち回りで開催されることとなります.本年度は津田塾大学での開催の予定でしたが,新型コロナウイルスの影響によりzoomを用いたオンラインでの研究集会となりました.
本年度は7件の口頭発表と9件のポスター発表があり,参加者は60名ほどでした.口頭発表はすべて招待講演だったこともあり,1件当たり50分の発表時間でしたがそれにも収まらない充実した内容でした.全体としては超離散系に関する講演が多く,種々の非線形現象のモデル化法として注目が高まってきているように感じます.また,位相幾何学や物性物理学,あるいは複素関数論と可積分系を絡めた発表もあり,可積分系の世界の広がりを実感することとなりました.
1日目はRalph Willox先生(東京大学)による「「Human and Nature Dynamics Model」の離散化と超離散化 ― 新たな挑戦とモデル化の限界」と題する講演に始まり,小林克樹氏(京都大学)による「超離散可積分系によるSmith標準形の計算」,高橋大輔先生(早稲田大学)による「箱玉系は動いているか」の講演が行われました.中でも私にとって印象的であったのは高橋先生の講演でした.2020年は箱玉系誕生30周年とのことで,それを記念してこれまでの研究の発展を振り返るとともに,若手研究者に向けた箱玉系や超離散系を研究する上での教訓も含む,大変興味深いものでした.
1日目の午後にはポスター発表が実施され,9件の発表がありました.オンラインでのポスター発表の実施に当たっては,当初はslackの利用なども検討されたようですが,最終的にはzoomのブレイクアウトルーム機能を利用するものとなりました.そのためポスター発表という名前ですが,実際にはパラレルでのショートプレゼンテーションのようなものです.2時間の発表枠の中で途中に休憩時間が設けられていたものの,多くのルームで休憩時間にも及ぶ活発な議論が交わされていたようです.私もファジー・セルオートマトンの収束性についてポスター講演をさせていただき,僭越ながら最優秀ポスター賞を受賞させていただきました.また,大森祥輔氏(早稲田大学)と山田弘樹氏(芝浦工業大学)の2名が優秀ポスター賞に選ばれました.オンラインでの発表は他の学会ですでに経験はしていたものの,やはり聴衆が見えない状態で話すというのは慣れないものです.また,通常のポスター発表と違って複数のルームに分かれているため,会場全体の雰囲気がわからず少し不安になる一方で,自分の発表に集中できる面もありメリットとデメリットの両方を実感しました.その後,夜にはオンラインでの懇親会が開催され,各々に飲み物や食べ物を用意して,談笑にふけることとなりました.
2日目には4件の口頭発表があり,順に福田亜希子先生(芝浦工業大学)による「相関付きランダムウォークから導かれる連続・離散・超離散方程式」,井上歩先生(津田塾大学)による「結び目に付随する代数系「カンドル」と対称性」,高橋大介先生(中央大学)による「ボース及びフェルミ凝縮体におけるソリトン励起とソリトン格子」,武部尚志先生(ロシア国立研究大学高等経済学院)による「無分散可積分hierarchy(概説)」の発表がありました.私がmax-plus代数という少し特殊な代数系も研究しているということもあり,井上先生のカンドルという代数系についての講演はとても興味をひかれるものでした.結び目に対する強力な不変量をつくるという目的で導入されたカンドルという代数系が,実は正多角形の対称性を記述しているとのことで,代数系を様々な角度から見ることの重要さを改めて認識することができました.また武部先生はロシアからのご講演とのことで,海外から直接発表ができるというのもオンラインならではのものだと感じました.
最後になりましたが,開催校の津田塾大学の永井敦先生,中屋敷厚先生,また研究集会の運営に尽力くださった世話人の皆様に心より御礼申し上げます.コロナ禍が収まり,来年度の研究集会では皆様に現地でお会いできることを願って結びとさせていただきます.