学術会合報告
三部会連携「応用数理セミナー」参加報告
2018年03月09日
相島 健助
あいしま けんすけ
東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻
2017年12月26日に早稲田大学西早稲田キャンパスにて,日本応用数理学会の「科学技術計算と数値解析」,「計算の品質」,「行列・固有値の解法とその応用」研究部会による三部会連携応用数理セミナーが開催されました.本セミナーは各研究部会で2時間の講演の枠があり,各分野の専門家をお招きして,学生および企業の研究者・技術者を対象とした講演をお願いしています.詳細は下記のURL<http://www.oishi.info.waseda.ac.jp/seminar/jsiam_seminar_2017.html >にありますので確認頂けますと幸いです.スライドが入手できる講演もあります(一部はパスワード付きで参加者しか見られませんが).簡単に,講演者とタイトルだけ列挙すると,午前のセッションの「計算の品質」研究部会からは,小林健太先生(一橋大学大学院商学研究科)の「三角形・四面体上の補間誤差評価とその有限要素法への応用」,椋木大地先生(理化学研究所 計算科学研究機構)の「次世代計算機のための数値計算ライブラリの実装技術」,午後のセッションの「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会からは曽我部知広先生(名古屋大学大学院工学研究科 応用物理学専攻)の「線形計算の反復法とその応用」,最後のセッションの「科学技術計算と数値解析」研究部会からは齊藤宣一先生(東京大学大学院数理科学研究科)の「数値計算に潜むトラップ」と「不連続ガレルキン時間離散化手法の変分法的な解析」の2つの講演がありました.全体の統括は三部会の間にて毎年交代で行っておりますが,今回は「計算の品質」部会の担当になっておりまして,尾崎克久先生(芝浦工業大学)を始め担当された先生方には感謝しております.
講演内容に関してはHPに詳細がありますので,ここでは少し違った切り口で本セミナーについてお話ししたいと思います.HPには,概要部分に「学部生・大学院生,企業の研究者・技術者を対象にした,「応用数理セミナー」を実施します.初心者向きの内容を意識しておりますので,分野外の方も気軽にご参加いただけます.」とありますが,ここ数年の実態としては,各研究部会の専門家が聴衆として多く参加しています.そのためか,今回のセミナーでも,おそらくその方面の人に向けても有意義な話をしようという発表者の気持ちの表れだと思いますが,時間をほぼ使いきるほどの盛り沢山な内容でした.準備にも苦労されたと思いますが私からも深くお礼申し上げます.
さて,セミナー後,本記事の執筆にあたり,内容を検討し過去の報告記事を検索してみたところ,実は8年前の応用数理セミナーの報告記事を私が松尾宇泰先生(東京大学)との共著で執筆していたことに気づきました.< https://www.jstage.jst.go.jp/article/bjsiam/20/3/20_KJ00006628977/_article/-char/ja/ > これを見て思い出しましたが,本セミナーは2005年~2007年に北海道大学COEの協力を得て開催されていた応用数理サマーセミナーを受け継ぐものです.現在,定期的に年末に東京で開催されていることは前身のものを思うと不思議かもしれません.今回のセミナーから紙媒体の資料の配布を廃止したことも有り,時代の流れを感じます.もともとは企業研究者や初学者へのチュートリアルの色合いが強かったと思いますが,ここ数年はすでに述べた通り専門家も多く集まり,チュートリアルの体をなしながら講演中は専門家による高度な議論も行われ,他にないある種の独特な雰囲気のあるセミナーになっているように感じます.思い返すと,同様の趣旨で「若手の会」研究部会の単独研究集会も連続して行う日程にしておりましたが,何年か前にそのやり方は打ち止めになりました.私はここ5年ほど,「行列・固有値の解法とその応用」研究部会の幹事団の中で応用数理セミナーを担当している立場からも,年末のイベントとして残った本セミナーの今後について期待と不安の両方を感じます.
昔話はこのくらいにして,最後に,今回のセミナーの当日の出来事を一つ記載して本報告を締めくくりたいと思います.講演していただいたある先生から,実は自分は研究部会主査から発表者を探すよう依頼された立場なのですが,ちょうど話したい内容があったので自分で発表することにしました,という旨の経緯の説明がありました.会場からは賞賛と笑いの両方を意味する声が上がり,これも参加者の間である種の一体感があったことの現れと思います.当日の様子が気になる方は是非次回以降の年末の本セミナーへの参加を検討して頂ければ幸いです.もしくは,発表を志願して頂ければどの研究部会からも大歓迎されることでしょう.