学術会合報告
北陸応用数理研究会2020 参加報告
2020年06月09日
大野 航太
おおの こうた
北海道大学電子科学研究所
2月に行われた北陸応用数理研究会2020についてご報告します.日時は2月17日(月)〜18日(火),場所は石川県金沢市の石川県政記念しいのき迎賓館でした.このしいのき迎賓館について少し説明しますと,元々は石川県庁の本館として大正13年に完成した建物です.平成14年に県庁移転に伴いその役目を終えた後は県庁庁舎の一部を保存しながら観光案内,会議室やギャラリーなど憩いの場として使用されています.推定樹齢300年のしいのきが出迎える入り口と歴史的な風貌は圧巻であり,古都・金沢の1つを表現していると感じました.個人的な感想としてはこのような古都は心が洗われ,研究会を行うのに適した場所であると思いました.
さて先ずはこの北陸応用数理研究会の歴史を遡ります.元々は2005年に「界面現象数理解析研究集会」,2006年に「非線形現象数理解析研究会」という名称で,同じく金沢で行われました.当時の世話人は友枝謙二先生(当時大阪工業大学),小林健太先生(当時金沢大学),長山雅晴先生(当時金沢大学)でした.その後,2008年からは名称を現在の「北陸応用数理研究会」に変更し,2011年を除き毎年行われていて,今回で12回目となる長く続く研究会です.今年の世話人は中村健一先生(金沢大学),上田肇一先生(富山大学),長山雅晴先生(北海道大学)でした.このように長く続く研究会があるのは今年の世話人の先生方を始め,これまで携わってくださった世話人の先生方や参加された方々のご尽力があってのことであり,感謝の思いが溢れるばかりです.
本研究会の議題は,反応拡散系・結合振動子系・逆問題・流体力学・機械学習など応用数学関連の幅広い内容です.問題とする現象も,2005年当時の主テーマであった界面現象は勿論,生物現象や遺伝子解析など多彩なテーマに溢れています.数学という同じベースがあっても,問題とする現象や用いる解析手法などが異なるだけで,異なる言語のように聞こえるのが応用数学の研究会の1つの特徴であると思います.また個人的な事ではありますが,学生時代は現象数理学という名のもとで応用数学や数理科学を学んできた私にとっては,このような研究会はとても刺激的かつ有意義であり,また自分の未熟さを痛感する大事な機会でもあります.
さて,次に今年の本研究会の内容について述べたいと思います.今年は14名の先生や研究員,院生の方々が講演しました.一人当たりの講演時間は質疑応答も含めて,院生は30分,先生や研究員の方々は50分でした.どの講演も問題とする現象に対して個性的なアイディアによる数学が使われておりとても興味深いもので,講演時間だけでは足りない程,内容溢れるものでした.特に私が印象的だったのは中田行彦先生(島根大学)の「分布型の時間遅れをもつ微分方程式の対称的な周期解について」でした.マイコプラズマ肺炎を例にSIRモデルを応用した研究で,現象やモデルの分かりやすい説明がとても勉強になりました.また世界的な問題である新型コロナウイルスの感染拡大に際して応用できることがあるのでは無いかと思い,昨今の世界情勢と重なり非常に印象的な内容でした.二日目の午前中は院生が講演するセッションが設けられておりました.加藤真菜さん(同志社大学)の「ランチョスによるガンマ関数近似を用いた1次元分数階微分方程式の数値計算について」は数学の問題としてとても興味深いものであり,また応用例として数値計算の結果も示しており一貫して分かりやすい説明が印象的でした.恥ずかしながら分数階微分方程式という言葉に慣れていない私にとっては,とても勉強になりました.
今回私は本研究会には初めての参加でしたが,今後ともこの様な幅広い応用数学に触れられる本研究会に携われたら,という思いです.本研究会は2月中旬でしたが,この後の研究会や学会は,昨今の新型コロナウイルスの影響により中止や延期になってしまったかと思います.私自身も,本研究会以降はセミナー等が中止になってしまいました.2021年の本研究会が開催される頃には,これまでのように研究会が行われ,活発な研究活動が出来る様になっていることを願って止みません.
最後に本研究会の世話人をして頂いた先生方,また携わって頂いた多くの先生,学生,秘書の方々に深く感謝を述べたいと思います.