学術会合報告

数学パワーが世界を変える2020 参加報告

2020年06月09日

野津 裕史

のつ ひろふみ

金沢大学・数物科学系

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2020年2月1、2日の2日間、東京・秋葉原において、シンポジウム「数学パワーが世界を変える2020」が開催されました。同シンポジウムは、科学技術振興機構(JST)のCREST・さきがけ、および文部科学省のAIMaPによる合同シンポジウムでした。初日はJSTさきがけの3期生の成果発表13件があり、108名の参加者がありました。2日目はJST CREST・さきがけ(1、2期)の研究者および産業界と経済産業省からの研究者・講演者による9件の講演を中心に、最先端の数学・数理科学関係の話題提供とディスカッションが行われ、139名の参加者がありました。また、ポスターセッションも開催され、JST CREST・さきがけの関係者を中心とした33件のポスターの前で活発な議論が行われました。広く一般の方々に向けたシンポジウムでありつつも、ポスターセッションでは、専門的なディスカッションが行われるなど、幅広い参加者の期待に応えられるように工夫されたシンポジウムだったと感じました。

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初日は、JSTさきがけ「数学協働」領域研究総括の國府寛司氏(京都大学)の挨拶で始まり、JSTさきがけ3期生の成果発表が行われました。JSTさきがけは、比較的若い研究者が自立して行う個人型研究で、幅広い数学・数理科学分野の研究が採択されています。代数幾何、乱数、力学系、トポロジー、偏微分方程式、統計、グラフなどの分野から、応用・発展的な内容の講演が行われました。各講演20分ということで、講演では一般(非専門家)向けの報告が行われ、専門家とのディスカッションは昼食後のポスターセッション(1時間)において行われました。また、初日の最後には、各研究者のトピックに分かれて、グループワーク「数学者と考える新しい社会のデザイン」が実施され、自由な発想のディスカッションが行われました。私は流体関係のグループで、中尾充宏氏(早稲田大学)や水藤寛氏(東北大学)と同席して、横山知郎氏(京都教育大学)のトポロジーによる流体の理解について、こんなことができますか、できたらいいですね、という話題で盛り上がりました。新しい試みで、とても新鮮でした。

2日目は、JST CREST「数理モデリング」領域研究総括の坪井俊氏(武蔵野大学)の開会の挨拶で始まり、JST CREST・さきがけ(1、2期)、産業界、経済産業省からの講演が行われました。JST CRESTはさきがけとは異なり、比較的大きなチーム型研究です。9件の講演は、「機械学習の数理の最前線」(CREST、さきがけ、各1件)、招待講演(経済産業省1件)、AIMaP「数学と異分野の協働で切り拓く新たなイノベーション」(産業界2件)、「データを読み解く新たな数理科学の探求」(CREST、さきがけ、各1件)、「センシング/制御技術の数理的新展開」(CREST、さきがけ、各1件)の順に各セッションにおいて行われました。講演時間は招待講演50分、セッション講演各35分で、少し落ち着いて最先端の話題を拝聴しました。初日に引き続き、ポスターセッションが開催され、込み入った内容のディスカッションが行われました。

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中でも、個人的に、経済産業省の守谷学氏の「数理資本主義の時代」という講演は、数学・数理科学の関係者にとってはキャッチーなタイトルであり、興味深く拝聴しました。2018年度に経済産業省と文部科学省が共同で開催した、産学界の有識者からなる「理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会」をとりまとめた報告書「数理資本主義の時代」に基づいており、世界的に数学・数理科学分野の人材育成と彼らの産業界での活躍が期待されている、という内容でした。CREST・さきがけ・AIMaP合同シンポジウムということで、産学官のうち、学からは当然として、産からの研究者らによる講演もある程度予想できます。しかしながら、このシンポジウムのような全国規模の会合での官からの講演は、個人的には新しいと感じると同時に、このシンポジウムの特徴のひとつだったのではないかと感じました。なお、関係資料は、こちら から読むことができます。ぜひ学生の皆さんに読んでほしい内容です。

研究成果の発表は基本的に刺激的であり、その内容がわかればわかるほど、どれほど(時間的・人的)リソースやエネルギーを費やしたものであるかを感じることができます。このシンポジウムは、大きなプロジェクトのサポートを得ているということもあり、ひしひしとそれを感じつつも、講演者の皆さんが自由な発想を基にして、楽しみながら真剣に仕事に取り組んでいる側面も垣間見ることができました。産業界での実応用までの距離や難しさを感じる時間もありましたが、参加者として、このシンポジウムを楽しむことができました。最後に、講演者のひとりとして、ご指導ご支援いただいた皆様に、この場をお借りして、心より感謝申し上げ、本参加報告を終わります。