学術会合報告

A3 Workshop on fluid dynamics and related topics 参加報告

2019年07月22日

剱持 智哉

けんもち ともや

名古屋大学 大学院工学研究科

2019年3月6日から9日にかけて, 理化学研究所 神戸キャンパスにおいて A3 foresight program の研究集会 A3 Workshop on fluid dynamics and related topics が開催されました. 日中の流体力学・数値解析の研究者が集まり, これら2分野と機械学習に関する研究発表が行われました. さらに, 本研究集会では, 通常の研究集会とは異なり, 研究発表だけでなく, 鳴門海峡の渦潮を観察する, という企画が行われました. 研究発表の講演はいずれも興味深く, 本稿でもいくつかの講演に的を絞って解説をしたいところなのですが, ここでは渦潮見学会を中心に報告したいと思います.

うずしお科学館でのレクチャー

渦潮見学会は, 単に渦潮を見学するだけでなく, 渦潮の仕組みについて学び, 渦潮の流れの流体運動理論とその数値解析について専門家で議論する, という趣旨で, ツアー形式で行われました. まずは淡路島へ向かい, うずの丘 大鳴門橋記念館内にあるうずしお科学館においてレクチャーを受け, 渦潮の仕組みについて学びました. 渦潮のメカニズムは, 以下のようになっているそうです:

  1. 太平洋側と瀬戸内海側とで, 干潮の周期がおよそ半周期程度ズレているために, 鳴門海峡を挟んで干潮と満潮が同時に存在する, という状況が発生する.
  2. それにより, 鳴門海峡を挟む海面の高さに大きな差が生じ, 急激な流れが発生する.
  3. 速い流れが狭い鳴門海峡を流れることにより, 渦が生じる.

恥ずかしながら, 私はこのレクチャーで渦潮発生の仕組みを初めて知りました. 鳴門海峡の渦潮は, 世界的に見ても珍しい現象であるそうです.

また, うずしお科学館にはうずしおの模型があったのですが, 個人的にはこれが非常に印象的でした. 本来の渦潮は水しぶきによって渦を認識しますが, 実験室ではそうはいきません. 科学館では, 水面に光を当て, 影を発生させることで渦を可視化していました. これは, 家の洗面台に水を張ることでも容易に実験することができます. 影の発生原理はおそらく光の屈折であると考えられます. 少し計算すれば, 渦が強いほど影が濃くなるということもわかります.

余談ですが, 大鳴門橋記念館には玉ねぎのUFOキャッチャーが設置されていました. これは, 大鳴門橋記念館と道の駅「うずしお」の2箇所にしかない珍しい機械です. 通常のUFOキャッチャーの要領で中にある玉ねぎを狙い, 獲得すると1.5kgの玉ねぎと交換できる, というシステムでした. とある参加者の先生が2回チャレンジし2回とも成功しており, 3kgの玉ねぎを持ち帰っていたのが印象的でした.

福良港でのレクチャー

その後, 道の駅「福良」に移動し, そこでもレクチャーを受けました. このレクチャーでは, 渦潮の他に, 渦によって下方へ向かった海水が海底で反射することで, 海水が湧き出ているように見える「海の花」という現象や, 先述の海水面の高低差により生じる「海の滝」という現象が観察できる, ということを学びました. また, この会場から南あわじ市の守本憲弘市長が参加され, 渦潮の世界遺産登録のために, 科学的な研究が必要である, という趣旨のお話をされました. 市長は, その後の昼食会で, 参加者の1人であった水藤先生のシミュレーション動画にも興味を示されていていました. このように行政が基礎研究に理解をしてくださるというのは大変にありがたいことであると思います.

渦潮の観察

ツアーの最後に, うずしおクルーズのフェリーに乗船し, 実際の渦潮を観察しました. この日は渦が大きくなりにくい条件であったようでしたが, それでも, 大小様々な大きさの渦が, いたるところで不規則に現れていました. 私にとって渦潮を生で観察するのが生まれて初めての経験でしたが, 渦の発生頻度とランダムさが想像以上であり, 非常に感動しました. それと同時に, シミュレーションの難しさを実感しました.

alt="渦潮の写真"
実際の渦潮 (撮影: 著者)

渦だけでなく, 先述の「海の花」と「海の滝」が想像以上に面白い現象でした. 特に「海の花」に関しては, 海面から水が湧き出しているかのように見えるという事実そのものが直感に反するものであり, 非常に印象的でした. これらの現象の写真を掲載しますが, 私の撮影技術の未熟さを差し引いても, あまり写真映えしない現象であるため, 興味を持たれた方はぜひ実際に観察していただければと思います.

 alt="「海の花」の写真"
「海の花」 (撮影: 著者)
画像中央の一帯で, 海水がジャグジーのように湧き出しています.

 

 alt="「海の滝」の写真"

「海の滝」 (撮影: 著者)
わかりにくいですが, 画像右から左へ急激に海水が流れており, 画像左側で海水が「落ちて」います.

謝辞

最後に謝辞を述べて本稿の締めくくりとさせていただきます. 今回, 私はA3プロジェクトの予算から支援をいただき, 本ワークショップに参加しました. その支援に感謝申し上げます. また, 坂上先生をはじめとしたA3プロジェクトの先生方, および東北大の金子様をはじめとしたA3プロジェクトの事務局の方々には, ワークショップの企画・運営, そして, 渦潮観察ツアーの開催へのご尽力に対し, 厚く御礼申し上げます.