学術会合報告
AIMS2018参加報告
2018年10月20日
三村 与士文
みむら よしふみ
日本大学文理学部
AIMS(American Institute of Mathematical Sciencesの略称)が主催する第12回国際会議「The 12th AIMS Conference on Dynamical System, Differential Equations and Applications」が台北の台湾国立大学にて2018年7月5日から7月9日まで開催された. この国際会議は1996年5月から始まったもので2年間に1回のペースで定期的に開催されており, 今年で12回目を迎える. 講演は参加者全体が集って聴講する総会講演, 力学系や微分方程式関連の135の小分類に振り分けられた同時講演, ポスター講演, 学生による論文コンテストなど, 延べ2000近い講演が行われた. また参加者も1400名に上る大規模な国際会議であった.
参加者の受付は台湾国立大学の総合体育館で行われ, 受付終了後にプログラムやネームカード, バスや地下鉄の乗車に有効なプリペイドカードが支給された. またネームカードの裏面にはwifiのログインキーが記されており, 各建物でログインキーを入力することでインターネットの使用も可能であった. 受付を済ませた私は興味本位で体育館の中をぐるっと一周してみたが, 台湾国立大学の体育館の広さと設備の充実ぶりに驚かされた. 卓球場やバドミントン場に加えて, スカッシュ場や社交ダンスを行うホール, 薙刀用のホール, 室内プールなど様々な施設があった.
先に述べたプリペイドカードについても触れておきたい. 支給されたプリペイドカードにはあらかじめ100台湾元程(400円程度)が入金されていた. 宿泊ホテルを会場から少し離れた場所に取っていた私にはバスの利用は欠かせないもので, これはとても重宝した. バスは乗車場所や降車場所に関わらず15台湾元であることも日本にはない文化で感銘を受けた. また, このプリペイドカードは地下鉄でも利用可能で, 日本の交通系ICカードと同様に現金での支払いよりも幾分安くなるので使わない手はない. ちなみにプリペイドカードはコンビニで追加入金が可能である. さて, プリペイドカードは大変便利であるものの台湾が初めての私にとっては不可解な出来事があった. それは, プリペイドカードはバスの乗車時と降車時のどちらにかざすべきかということである. ある時は乗車時にかざすと運転手から怒られ, ある時は乗車時にかざさないでいると怒られるのである. 台湾語もわからないため, 結局いつかざせばいいのかわからなかったので帰国後に台湾通の知人に尋ねたところ, どうやらバスによって違うようである. バスの乗車口付近に上・下と記された電光掲示板があり, 上が点灯しているバスであれば乗車時にカードをかざし, 下が点灯しているバスであれば降車時にかざすそうである.
話が本題の国際会議から横道に逸れたが, しかしこの異文化を感じられるところも国際会議の醍醐味であるように思う. このことに加え, 他国の知り合いの数学者と再会する場としても, また新たに知り合う場としても, 最新の研究成果について情報交換を行う場としても, とても充実した国際会議であった. 特に私の個人的な収穫であるが, いわゆるWasserstein距離の一般化であるHellinger-Kantorovich距離に関する研究が興味深かった. Wasserstein距離は確率測度の空間で定義される計量で, 従来の関数空間では勾配流として扱えなかった偏微分方程式に勾配流としての側面を見出した. しかし, 確率測度の空間で扱われることからもわかるように, 連続の方程式から派生した保存則を持つ偏微分方程式が対象である. Wasserstein距離の一般化はそれ自身が変分的な問題として興味深いだけなく, 勾配流として定式化できる偏微分方程式の対象を広げる寄与もある. この一般化が単なる勾配流としての定式化に留まらず新たな成果をもたらすのかどうかなども今後吟味していきたい.
終わりに, この国際会議での講演の機会を与えてくださった東京工業大学の柳田英二先生と東北大学の赤木剛朗先生に感謝申し上げます.