学術会合報告
「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会 第24回研究会
2018年01月26日
今倉 暁
いまくら あきら
筑波大学
「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会の第24回研究会が2017年11月24日(金)に東京大学本郷キャンパスにおいて開催されました。本研究会について、運営と参加の両面から報告させていただきます。
本研究部会では、9月の年会および3月の研究会連合発表会を含め、以下の通り年に5回の研究会を開催しております。
- 7月:第23回単独研究会(SWoPP2017連携)
- 9月:2017年度年会
- 11月:第24回単独研究会
- 12月:第9回3部会連携「応用数理セミナー」
- 3月:2018年研究会連合発表会
本研究部会のこれまでの活動内容および今後の活動計画については研究部会ホームページをご確認ください。
第24回単独研究会では、9件の発表が行われました。発表者は学生、若手研究者からベテランの研究者まで年齢層も幅広いものでありました。特に学生の発表が5件あり、新鮮味のある研究会であったように思います。
講演題目を並べると、多重極係数のテンソル分解に基づく脳磁場逆問題解法、信号到来方向推定アルゴリズムESPRITの数理構造を用いる動的モード分解、多項式前処理による複数右辺ベクトルを持つシフト線形方程式の求解、虚数シフトを行った実対称行列のためのCOCG法と一般化MINRES法の性能比較、Stabilized GMRES method using the normal equation approach for highly ill-conditioned problems、一般内積における直交化のためのMGS-HP(s)法、Scaling and squaring のためのパラメータの算出法、シフト付きコレスキーQR分解を利用した逆反復法の高速化、少数のレゾルベントで構成されたフィルタによる実対称定値一般固有値問題の解法とその実験、であり、線形方程式や固有値問題などの基盤的なものから脳磁場逆問題解法のように応用を強く意識したものまで幅広い分野の研究発表が行われました。また、対象とする問題は異なるものの、基盤とする技術を互いに共有しているものも多く、活発な議論が行われていました。
筆者が特に印象に残った講演として、「多重極係数のテンソル分解に基づく脳磁場逆問題解法」について紹介します。この講演では、神経に流れた電流により発生する磁場を頭の外側で計測した結果から、電流源を双極子として推定する逆問題を対象としています。このような問題に対し、各時刻において磁場の多重極係数から双極子を推定する既存手法では双極子モーメントが小さい時刻の推定に失敗しやすい。これに対して、講演では多重極係数を時系列で並べたテンソルを考え、このテンソルにCP分解を適用することで、双極子モーメントが小さい時刻も含めて双極子位置を精度良く推定できる手法が提案されました。CP分解に代表されるテンソル分解は大規模データ解析を中心に注目されており、近年活発に研究されています。また、固有値解法としてもCP分解を利用する解法が提案されており、本講演で提案された手法との関連性にも興味が湧きました。著者の個人的な感想ではありますが、国内ではテンソル分解のアルゴリズムについて海外ほど活発に研究は行われていないように思います。今後は国内においてもテンソル分解やそれに基づく線形計算アルゴリズムに関する研究が活発に行われることを期待したいと思います。
研究会終了後に本郷三丁目駅付近で懇親会を行い、研究に関連する話からしない話まで様々な話題を通し、楽しく交流を深めることができました。
最後に、参加・講演して頂いた方々に感謝致します。