学術会合報告

CSIAM2017とA3 Workshop参加報告

2017年12月05日

齊藤 宣一

さいとう のりかず

東京大学 大学院数理科学研究科

2017年10月13日から15日まで,ビールで有名な青島(中国)で,中国応用数理学会(CSIAM)の第15回目の年会が開かれた.今回,この年会におけるEmbedded Meetingsとして, A3 Workshop on Fluid Dynamics and Material Science (日本側代表:西浦廉政教授・東北大AIMR)とA3 Workshop on Modeling and Computation of Applied Inverse Problems(日本側代表:山本昌宏教授・東大数理)が開かれ,筆者をはじめ日本から20名程度が参加する機会を得た.この場を借りて,簡単な報告を記したい.(A3=日中韓フォーサイト事業についてはJSPSのウェッブページを参照されたい.)

今回が第15回ということは,CSIAMの歴史は日本応用数理学会(JSIAM)に比べると10歳若い.しかし,年会への参加者は,前日までの事前登録者が768人であり,主催者側は最終的に1,050人程度の参加者を見込んでいたようである(最終的な参加者数は,公表されていない.なお,A3関係の参加者は80名程度であった).この数字は,最近のJSIAMの年会の参加者よりは多く,盛況な様子が伺える.プログラムも,毎朝8:00から全体講演が開始される精力的なもので,遅刻せずに会場に行くのが大変であったが,3日間の密度はとても濃かった.

筆者は,西浦A3のメンバーとしてWorkshop on Fluid Dynamics and Material Scienceに参加した.このA3プロジェクトは,今年4年目を迎え,すでに,材料科学,流体数学などの個別の具体的なテーマに特化したワークショップも複数回開かれている.今回は,4回目の全体会議であったが,各テーマに関する総合的な報告とともに,新たな参加者による新たなテーマの模索も報告され,ますますの研究の拡がりを感じた.例えば,北京大学のBin Dongさんの講演”Deep Revolution” in Image Restoration and Beyondは,(詳細が理解できたわけではないが)機械学習の単なる応用を超えて,新しい数理科学の世界を目指しているように私には感じられた.なにより,タイトルが良い.私にとっては,専門外ではあったが,中国の若手の野心と迫力を大いに感じ,刺激された.

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A3 Workshop on Fluid Dynamics and Material Science 集合写真

CSIAMの会長でありA3 foresight program 中国側代表者のPing-Wen Zhang 教授(北京大)の呼びかけにより,10月14日に日中韓のSIAMの会長にヨーロッパのECMI (European Consortium for Mathematics in Industry)の会長も加わり,合同SIAM代表者会議が開催された.日本からは佐古会長代理として國府寛司教授(京都大)及びA3 foresight program日本側代表者の西浦廉政教授(東北大)が参加した.各国のSIAM活動の 報告がなされ,その後意見交換が行われた.とくにmultilateral な協力関係を 構築する方策について活発な議論が行われた.

今回のA3にも日本からの院生・若手研究者が数名同行してくれた.せっかく,CSIAMと同じ会場で開かれているので,CSIAMのセッションにも参加することを勧めた.そのうちの数名から,感想をいただいたので,ここで紹介して,この報告を終えたい.

・今回A3と同時に開催されたCSIAMの講演をいくつか聞いた.私が聞いた講演の一つは,2次元円筒座標を用いたオイラー方程式の数値解を,ラグランジュ型スキームで計算する際に,気体の爆発現象などで生じる対称性と正値性を保存する高精度スキームを構成したというものであった.発表は中国語だったが,スライドが英語だったので少しは理解できた.構造保存型DGスキームといった今後の研究の参考にしたい.(東大数理D1・千葉悠喜)

・CSIAMでは, タイトルとスライドは英語だが発表は中国語という講演が多かったものの, 私の理解できた範囲で感想を述べる. 私の聴講した中で, 特に界面問題に関するいくつかの講演において, 先行研究の結果を異なった問題設定に適用するという試みが研究されているように感じた. いずれも実際の数値計算における計算コストや労力を軽減する意図があるように思われ, 現象解析への応用が強く意識されているようであった.(東大数理D3・上田祐暉)

・CSIAMの流体方程式に関するセッションをいくつか聴講した.内容としては数学解析と数値解析の両方を取り扱っていた.自分の専門である数値解析分野に関しては,WENOスキームと呼ばれる数値計算手法を取り扱った講演が多いという点が,日本ではあまり見られない傾向として印象的であった.特に「今更紹介するまでもないだろう」という空気感を感じた.しかしながら,1次元問題や構造格子など簡単な場合しか取り扱っていない講演も多く,それらを一般化することでその分野に参入する余地があると感じた.(東大数理D3・剱持智哉)

・私は,材料科学における数学理論および数値計算手法をメイントピックとしたセッションTM12(材料科学中的数学理論与計算方法)に参加した.材料科学と全く関連づけた話をしていない講演も散見されたが,個人的には,材料科学における重要なテーマであるdislocation(転位)を扱った講演が複数存在したことが興味深い.転位は原子構造のある種の欠陥を描写する概念であり,転位が存在することによりエネルギーロスが生じるため,転位構造を事前に理論的に調べることができれば,産業界への応用にもつながり,近年,数学の立場からも盛んに研究されている.本セッションにおける講演の1つは,ネットワーク上の転位構造の考え方を導入し,その数学的な解析の第一歩を踏み出すものであり,今後の進展が強く期待される内容であった.(東大数理特任研究員・榊原航也)

・私は,高効率・高精度な数値計算手法の開発とその応用に関するセッションTM07(高效高精度数値算法及其応用)に参加した.私が聴講できた範囲では,ほとんどの講演が数値計算手法の改良とその基礎解析であった.例えば,スペクトル法の誤差解析に関する講演では,ヤコビ多項式を用いることで2次元において非圧縮条件と非すべり条件を厳密に満足することが示され,非常に興味深かった.本セッションは 3日間・28講演で構成され,聴講者も50名ほどであり,日本と比較して, 中国の応用数理研究者の層の厚さを実感した(東北大特任助教・井元佑介)