学術会合報告

EASIAM2014 参加報告 ~ Student Paper Prize を受賞して ~

2014年09月13日

相原 研輔

あいはら けんすけ

東京理科大学 理学部 数理情報科学科

2014年6月23~25日,タイ・チョンブリー・パタヤにある Ambassador City Jomtien Hotel にて,国際会議 East Asia Section of SIAM (EASIAM) 2014 が開催された.当初は,バンコクでの開催が予定されていたが,内政の事情から,国際的な観光地であるパタヤへと変更された.主催者側の適切な情報提供と手厚い気配りのおかげで,安心して会議に臨めた参加者が多かったと思われる.

今回で10回目を迎える本会議は,東(東南)アジアを中心に,科学,産業,エンジニアリング,テクノロジーなどあらゆる分野に関連する応用数学全般にスコープが当てられており,参加者は190名以上であった.会議には,通常の研究発表や招待講演の他に,Student Paper Prize という学生論文賞が設けられており,著者はその受賞のために参加した.そこで本報告では,Student Paper Prize について,僭越ながら受賞までの経緯や現地での受賞講演について書かせて頂きたい.

Student Paper Prize は,主に博士課程の学生を対象としたものと思えるが,学位論文の審査が期日の1年以内であれば,申し込むことができる.実際,著者も博士課程3年次の2月末に申し込みを行い,受賞の通知を頂いたのは学位取得後の4月末であった.申し込みには,論文に加えて業績リストを含めたCV,論文に対する指導教員からの評価書が必要となる.提出する論文が既に公開されているかどうかは問わないようである.実は,著者は前年にも同様の研究内容をまとめた論文で申し込みをしていたが,その際は受賞には至らなかった.当時の論文はまだ論文誌に出版されておらず,文書も不十分な点が多かったように思う.一方,今回提出した論文は,既に出版された論文「K. Aihara, K. Abe, E. Ishiwata, A variant of IDRstab with reliable update strategies for solving sparse linear systems, J. Comput. Appl. Math., 259 (2014), pp.244–258」を基に作成しており,十分に精査されていたため,受賞の後押しになったと思われる.内容は,大規模連立一次方程式に対して,近年注目されている帰納的次元縮小(Induced Dimension Reduction, IDR)法の収束性を改善する改良アルゴリズムの提案である.

受賞の通知を受けた者は,その時点で受賞が確定されるわけではなく,順位についても未確定の状態である.受賞者(正確には通知を受けた候補者)は,会議に参加して論文に関する講演を行うことで賞を拝受することができる.また,プレゼンテーションの審査によって,1st, 2nd, 3rd の順位が決められる.講演を行えば受賞は確定されるが,年によって人数は異なり,同率で複数名が受賞する場合もある.今回の受賞者は3名であり,著者の他に中国から Qinglin Tang 氏,香港から Jiang Yang 氏が選ばれ,それぞれ「Numerical Study of Quantized Vortex Interactions in the Nonlinear Schrodinger Equation on Bounded Domains」,「Long Tim Numerical Simulations for Phase-Field Problems Using p-Adaptive Spectral Deferred Correction Methods」と題する講演をされていた.講演は一人あたり質疑込みの30分であり,初日の夕方に行われた.授賞式は2日目の Banquet で催され,会議の Chair である Ming-Chih Lai 教授から順位の発表ならびに賞状と賞金の授与が行われた.結果,著者は 1st Prize を授与され,2nd Prize は同率であった.講演の緊張から解放されて,順位についてはあまり意識していなかったが,1st Prize と分かった瞬間は驚きと喜びを隠せなかった.

今回の講演に際しては,通常の研究発表とは少し異なる工夫を凝らした.もちろん,賞の順位を決める大事な発表ということもあるが,なにより,会議のスコープとプログラムを見た限り,参加者の専門分野が非常に幅広いことが分かったからである.講演は基礎的な導入から始めて,図表などを入れた分かり易い説明,インパクトのある数値実験データを提示するなど,分野の異なる方にも印象が残るように心がけた.これらが功を奏し(たかどうかは定かではないが),分野を問わず多くの研究者からご意見を頂くことができ,大変貴重な経験であった.

以下の写真は授賞式で記念撮影をしたときのものである.例年,受賞者(学生)は指導教員と並んで撮影する場合が多いようであるが,今回は単独での参加であったため,日本からの参加で Committee でもある張 紹良教授(名古屋大学)に写って頂いた.
また,HP
http://cem.sc.mahidol.ac.th/easiam2014/ )には会議中の写真が公開されているため,興味のある方はぜひ参照されたい.

博士課程学生や学位取得直後の若手研究者にとって,論文賞は大きな業績の一つであるとともに,研究の自信に繋がるものだと思う.Student Paper Prize に関して言えば,自身の経験から,一度で諦めるのではなく,複数回チャレンジすることを強く勧めたい.そして今後も,日本から Student Paper Prize の受賞者が多く出ることを願ってやまない.

左から Tao Tang 教授,Jiang Yang 氏,Qinglin Tang 氏,Ming-Chih Lai 教授,著者,張 紹良教授