学術会合報告
ECM2017 参加報告
2017年09月11日
周 冠宇
しゅう かんう
東京理科大学
2017年5月31日から6月2日まで,The Third International Conference on Engineering and Computational Mathematics (ECM2017)が,香港のHong Kong Polytechnic Universityで開催された.この研究集会は,大勢の研究者を招聘し,工学と数値計算の理論と応用に関する最近の発展について,研究発表と議論を行うことを目的として,4年に一回開催されている.今回,ECM2017への参加をきっかけに,筆者は7年ぶりに香港に行って,様々な思いがわき起こった.この場を借りて,研究集会の感想を報告させていただきたい.
本研究集会の特徴であるが,講演は主として招待講演であり,募集した一般講演が極めて少ない.筆者が出席したセッションの一般講演は他の八つのセッションに比べて相当多かったが,それでも一般講演が占める時間的な割合は,そのセッション全体の1/5にも満たなかった.また,講演者230人の中に,アメリカとカナダから来た方が多いと感じた.中国側の参加者も少なくはない.一方,ヨーロッパ,韓国,インドとシンガポールからの参加者は若干名であった.今回,日本からの参加者は7人しかおらず,バンケットの美味しい広東料理を楽しんでいるとき,少し寂しく思った.
本研究集会には東京大学の齊藤宣一先生が招待されており,これを契機として,齊藤研究室の剱持智哉氏,明治大学の佐々木多希子先生と著者は一般講演を申し込み,一緒に参加することになった.私たちは「Numerical Solution of Differential Equations」というセッションに参加した.セッションは大変盛況で,ほぼすべての講演に対して多くの質問やコメントがあり,予定時間を大きく超過してしまうほどであった.
筆者にとって,最も印象深い講演は Benoit Perthame 先生(Université Pierre et Marie Curie, France and Université Paris-Diderot and INRIA)のPlenary Talkである.様々な神経ネットワークモデルに対する数学的な解析とシミュレーションについて,筋道の立った解説がなされた.特に,1920年代に提案された単純なモデルから,1963 年にノーベル生理学賞を受賞したホジキンとハックスレーのモデル,そして,現在注目されているモデルに至るまで,モデルの発展の経緯について丁寧な紹介がなされた.実は,筆者は去年から細胞の発火モデルの研究を始めた.一時,研究の方向性に迷い自信を失うことがあったが,この講演を拝聴し士気が上がった.
ちなみに,今回,佐々木先生は非線形シュレーディンガー方程式に対する数値計算について発表した.この研究では,Georgios Akrisvis 先生(University of Ioannina)とJilu Wang先生 (Florida State University) の先行研究に基づいて,作用素論の視点から考察し,新たな結果が得られた.彼女は同セッションに出席した Akrisvis 先生と Wang 先生から良い評価が得ることができ,「それが一番嬉しい」と言っていた.
三日間の研究集会は,毎日ほぼ朝9時から夕方6時まで,スケジュールがぎっしり詰まっていた.体力を消耗したが,筆者が興味をもつ有限要素法に関する講演がたくさんあり, 充実した時間を過ごすことができた.また,この分野で有名な研究者達の活躍する姿を見て,我々も彼らに負けないように研究を進めていかないといけないと強く思った.
最後に,開催側の接待を少し述べたい.研究集会では昼食と夕食が提供されたが,特に夕食では豊富な広東料理が用意されて,香港の名物「焼味」をたっぷり味わった.バンケットのレストランも豪華で,研究集会を通して,開催地である香港の食を満喫することができた.