学術会合報告

MI^2I(情報統合型物質・材料開発イニシアティブ)チュートリアルセミナー第4回開催報告

2017年07月21日

石井 真史

いしい まさし

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 材料データプラットフォームセンター

はじめに

 

平成29年1月27日(金)、「MI^2(エムアイスクエア、情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開 チュートリアル」を全日通労働組合 8F大会議室Aにて開催した。

http://coop-math.ism.ac.jp/event/2016T01

本チュートリアルは、平成28年7月25日(月)JST東京本部別館1階ホールにて開催した第二回

http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_2.html

および、平成28年10月27日(木)全日通労働組合 8F大会議室Aにて開催した第三回

http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_3.html

の続編である。これまでと同様、「文部科学省委託事業 数学協働プログラム(受託機関:統計数理研究所)」に基づいて実施した。平成28年度開催の第二回以降は「超基礎からの」をキーワードとし、MI^2手法を毎回一つ取り上げ、統計的手法の解説から始まり、実応用例の紹介で終わる、各回完結の講義をシリーズ化してきた。今回はトポロジカルデータ解析を取り上げ、受講者の極めて高い満足度を得たので、その成果を報告する。また、今年度の「超基礎からの」シリーズを総括し、それに基づき来年度の展望を述べる。

 

「超基礎からのトポロジカルデータ解析」チュートリアルセミナー

 

前回の津田宏治 東京大学教授が開発したCOMBO(COMmon Bayesian Optimization Python Library)を取り上げた講義「超基礎からのベイズ最適化」と同様、今回はトポロジーの予備知識なしでパーシステント図が解析できるソフトウェアHomCloudの紹介を含めた、実応用に近い講義を企画した。ここでパーシステント図とは、「穴」に注目して物質・材料の微細形状を数学的に図化したものである(図1)。講義の前半の「基本編」では平岡裕章 東北大学教授により、この形状解析手法が概説された。後半の「応用編」では中村壮伸 東北大学助教により、パーシステント図を使った気体、液体、結晶の分析例、ガラス構造の解析など物質・材料研究への応用が議論された。微細形状が物質・材料の機能性を生み出す要因の一つであることはよく知られているが、構造と機能の関係を数学的に記述する本手法はMI^2に極めて有用である。本チュートリアルではその有用性が両講師によって系統的に導入された。

alt="FIG1a"
図1 パーシステント図の基本アイディア 穴の生成と消滅

JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)」 http://jom.jsiam.org/13883

では、MI^2の社会実装にも力を入れている。本年度のチュートリアルを振り返ってみると、本誌、日本応用数理学会JSIAM Online Magazineでこれまで報告してきたように、第二回のスパース性を用いた回帰LASSOの「基盤知識」から始まり、第三回のCOMBOを使ったベイズ推定「ライブラリ」、第四回のパーシステント図の解析「ソフトウェア」HomCloud、という構成となり、取り上げた手法は各回で異なるが、全体を見渡すと結果的に次第に開発現場に近づく流れとなった。本チュートリアルの受講者像は、主に40代の企業の研究開発現場で活躍する研究者・技術者である。こうした受講者像との整合性が良くなったことも反映して、今回の「超基礎からのトポロジカルデータ解析」に対する満足度(アンケートで「とても満足」または「満足」の回答の割合)は過去最高の87.1%に達した。

アンケートから読み取れる別の注目すべき結果は、受講者年齢が回を重ねるごとに下がる傾向がある(図2)。第二回と第三回では40代にピークがあった年齢分布は、第四回では30代にピークを持つようになった。この若年化は、現場に近いチュートリアルが好まれる傾向をより加速すると考えらえる。

これらの結果や、昨今のMI^2の普及状況から考えると、今後継続予定のチュートリアルでは、MI^2の材料科学への応用を速習できる内容への展開が必要であろう。そこで平成29年度は、新シリーズ「MI2新材料探索のためのデータ科学」を統計数理研究所の後援で開催する予定である。ここでは「超基礎からの」シリーズの基盤に立ち、物質・材料開発で即使える実践的手法を身につけることを目標とする。年度内に3回開催し、概ね「全体像と最新事例ベンチマーク」「手法選択:計算系事例」「手法選択:実験系事例」といった内容を検討している。

 

alt="C:UsersMarhDocuments2017_04_09MI2ITutorialJOMG1703A_Figs.opj/G1703A_Figs/Folder1/G1703C//G_AgeC"
図2 受講者の年齢分布の変化

 

本年度開催した全チュートリアルセミナーは、前述の数学協働プログラムから資金援助で撮影し、教材用のDVDとしてまとめた。単に講義を記録したものではなく、特別な処理による動画の挿入など、現場での受講と遜色のない、あるいはそれ以上に分かり易さを追求した、質の高いものに仕上がっている。更に、講義の全スライドもPDFファイルで収録しており、教育目的での利用に限り、申請書・誓約書の提出があれば、無償で提供している。手続きの詳細は

http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_4.html

を参照いただきたい。