学術会合報告

行列固有値研究部会 第22回研究会

2017年04月19日

宮田 考史

みやた たかふみ

福岡工業大学

「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会の第22回研究会が2016年11月25日(金)に東京大学本郷キャンパスにおいて開催された.本研究会について,運営と参加の両面から報告する.

まず,「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会の活動を簡単に紹介する.本研究部会は,1年に5回の研究会を開催しており,2016年度の活動は次のとおりである.

(1) 第21回研究会(7月開催)
(2) 2016年度年会(9月開催)
(3) 第22回研究会(11月開催)
(4) 応用数理セミナー(12月開催)
(5) 2017年研究部会連合発表会(3月開催)

(1)は,電子情報通信学会および情報処理学会との連携による開催であり,並列計算や通信削減などの高性能アルゴリズムやその収束性・誤差の解析など,ハイパフォーマンスコンピューティングに関連したテーマの発表が多い.(2)と(5)は,複数の研究部会が合同で開催しており,例年参加人数が多く,様々なテーマの発表が行われる大規模な研究会である.(4)は,3部会,すなわち,「科学技術計算と数値解析」研究部会,「計算の品質」研究部会,「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会,による合同開催である.このセミナーでは,各部会から推薦された少数の講演者から,1件あたり2時間程度でゆっくりと講演を聴くことができる.また,講演は初学者向けの内容を意識して行われるため,気軽に参加可能である.以上の研究会と比較すると,今回の研究会(3)は,「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会が単独で開催する小規模な研究会であり,初めて学会発表を行う学生はもちろんのこと,誰でも気軽に参加・発表を行うことができる.

次に研究会の内容を紹介する.今回は全部で8件の講演があった.具体的には,一般化固有値問題において指定区間に含まれる固有値の効率的な計算法,幾何学に現れる固有値問題とその計算法,並列計算機上で標準固有値問題の全固有値を高速に求めるアルゴリズム,非負行列分解と機械学習への応用,非負制約付き・行列低ランク近似のための高速解法,最適化問題における効率的な計算法,線形方程式の反復法に対する収束性の改善,劣決定系最小二乗問題に対する反復法の安定化など,幅広い話題があった.扱う問題を解くために何らかの下位問題を解くケースが多く,その際(数値誤差の影響を除いて)解を厳密に求めるアプローチが多かったが,下位問題を近似的に解いた場合,元の問題の解の精度やアルゴリズムの速さがどのように変わるのか興味がわいた.筆者にとっては,自分で扱ったことのないテーマが多く,講演内容を十分に理解することはできなかったが,問題の背景を丁寧に説明してくださる講演者が多く,刺激を受けた.特に,並列計算機向けのアルゴリズムに関する講演(ブロックヤコビ法に基づく強スケーリング型固有値・特異値計算アルゴリズム)について,印象深い点を以下に紹介する.並列計算機の性能を引き出すための研究は盛んに行われており,並列性の高いアルゴリズムの開発はもちろんのこと,アルゴリズムの性能を左右するパラメータを計算機環境に応じて調整する手法や,複数種類の計算機環境を想定した負荷分散の調整など,様々な取り組みがある.固有値問題に関しては,すべての固有値と固有ベクトルを計算する場合,計算量とメモリ使用量の両面から並列計算機の利用が不可欠である.特にQR法は応用分野で長い使用実績があり,並列計算機向けの改良が進められている.一方,講演で扱われたヤコビ法は,固有値計算の古典的な解法であるが,並列計算に適した性質を備えることから,近年再び注目を集めている.講演では,並列性がより高いブロック版のヤコビ法において,非対角成分を消去して(固有値を成分に持つ)対角行列へ変換する際の消去順序の選び方に対する考察や,京速計算機上で並列計算を実行し,性能評価を行った結果が示された.特に,行列の大きさを一定にしてコア数を増加させると,講演者らの手法は既存の並列ライブラリに比べて高い性能を有することが示された.この特徴は,扱う問題規模よりも計算資源が今後も増加する傾向を踏まえると,有望である.また,下位問題としての小規模問題に対しても,効率的な並列化を実現している点が興味深く,論文等で詳細を知りたいと思った.

研究会終了後に本郷三丁目駅付近で懇親会を行い,ベテランの先生や若手の先生,学生を含めて語り合った.懇親会では,講演内容および関連するテーマについての質問をはじめ,各自の近況や研究会の運営についても話が及び,約4時間大いに盛り上がった.筆者は,時間が過ぎるのを忘れて楽しく過ごすことができた.

最後に,ご参加頂いた皆様に感謝いたします.