学術会合報告
RIMS研究集会「現象解明に向けた数値解析学の新展開II」開催報告
2016年12月18日
柏原崇人,齊藤宣一
かしわばら たかひと,さいとう のりかず
東京大学大学院数理科学研究科,東京大学大学院数理科学研究科
2016年10月19日から10月21日まで,京都大学数理解析研究所の420号室においてRIMS研究集会「現象解明に向けた数値解析学の新展開II」(英語タイトルは”Numerical Analysis: New Developments for Elucidating Interdisciplinary Problems II”)が開催されました.「数値解析」をキーワードに,様々なバックグラウンドを持つ研究者が一堂に会して交流する場として,今年で48回を数える伝統ある研究集会です.本年は齊藤宣一(東京大学)と柏原崇人(東京大学)がそれぞれ研究代表者と副代表者を務めました.国内外から88名の研究者の参加があり,14件の招待講演(45分)・5件の基調講演(30分)・若手研究者による7件のショートコミュニケーション講演(15分)が行われました.以下にその開催報告を述べさせていただきます.
本年度のコンセプトは,数値解析と関連する各分野について,(1) 数値解析学分野そのものの研究深化の方向性,(2) 他分野との協働可能性を明確することでした.この目的のために,次の3つの概念をキーワードにして講演を設定しました:
- 基礎(微分方程式の近似や離散化,離散化問題の解析など)
- 方法(高速・高精度アルゴリズムの開発や実装など)
- 応用(計算力学,産業・工業・金融など諸分野での数理など)
すなわち,数値解析における基盤理論についての情報の共有,および,現場からの要請についての情報交換を行うことで,数値解析学と諸科学の連携を促進することを目指しました.その結果,理論面では例えば有限要素法の基礎理論の新展開の可能性の発見,応用面では計算科学への数値解析の寄与の方法といった点について,参加者の間で問題意識が共有されるという大きな成果が得られたのではないかと思います.
ごく一部ではありますが,具体的な研究集会の様子を記します(筆者に予備知識がある流体の数値解析や有限要素法に話が偏りますがご了解ください).初日のセッションでは,青木尊之先生(東京工業大学)がGPUスパコンによる大規模流体シミュレーションについて講演され,ゴルフのバンカーショットやイチョウの葉が舞い落ちる様子など,現実の映像かと錯覚するような美しい可視化結果に圧倒されました.現状では109の自由度ならば扱えるが,1012はまだまだ難しいと話されており,最先端の数値シミュレーションの事情をうかがうことができました.
2日目には有限要素法の基礎理論をテーマとした特別セッションが開催され,5件の基調講演から構成されました.その中の1件は,ゲストとして,有限要素法の大家の一人であるMichal Krizek先生 (Czech Academy of Sciences) をお招きし,”On angle conditions in the finite element method”というタイトルで講演して頂きました.有限要素法で求めた近似解が偏微分方程式の厳密解に収束するには,メッシュ(三角形分割)に何らかの幾何学的条件が要求されます.最も有名なものが最小角条件(三角形の内角がある値より常に大きい)で,1968年ごろにチェコの研究者によって発見されました(※1).ただしこれは必ずしも収束性のための必要条件ではなく,収束性を担保するのにメッシュが満たすべき本質的な条件は何かという問題が生じます.Krizek先生の講演ではこの問題に対するサーベイとして,歴史的なレビューやご自身の最新の結果を提示されました.
その他の基調講演,招待講演,ショートコミュニケーション講演においても,興味深い研究結果が発表され,活発な議論が交わされました.本研究集会で講演された皆様,および参加者の皆様には深く感謝申し上げます.次年度は,九州大学の渡部善隆先生に研究代表者をお引き受けいただき,RIMS研究集会が開催される予定です.伝統ある本研究集会が,今後も多くの研究者の交流の場となり,数値解析学の発展に寄与することを願っています。
(※1)Krizek先生が逸話として話されていましたが,最小角条件はM. Zlamal教授とA. Zenisek教授(二人とも同じ大学の同じ研究科に所属)が独立かつほとんど同時(論文受理のタイミングで1週間程度の違い)に報告しており,二人とも最初に発見したのは自分だと主張したそうです.