学術会合報告
Czech-Japanese-Polish Seminar in Applied Mathematics2016 “ポーランドの京都”にある地下約100メートルの世界
2016年12月18日
友枝 恭子
ともえだ きょうこ
摂南大学理工学部基礎理工学機構
関西国際空港の従業員が麻疹に集団感染した問題で、その深刻さが増してきた頃、私はこの空港から出国した。 理由は2016年9月5日(月)から9月9日(金)にかけて開催される Czech-Japanese-Polish Seminar in Applied Mathematics2016 (CJPS2016) に参加するためである。麻疹の予防に期待はできないが、無いよりはましという理由で、普段使わないマスクを装着したことをよく覚えている。さて、本セミナーは今までチェコと日本で開催されていたようで、ポーランドで開催されたのは今回初めてであった。セミナー会場はポーランドのクラクフにあるAGH科学技術大学である。クラクフはポーランドで最も歴史のある都市の一つであり、その規模は「ポーランドの京都」と称されるほどである。実際、大学からしばらく歩いたところに旧市街があり、歴史的な風情を醸し出していた。日本からクラクフへは 直行便がないため どこかの空港を経由しなければならないのだが、丁度良い接続便がなかったため フランクフルトで1泊して翌朝クラクフへ向かった。クラクフの空港では、世話人のRobert Strakaさんが出迎えて下さり、宿泊するホテルまで連れて行ってもらった。私が泊まっていたホテルはAGH科学技術大学まで徒歩30分ほどの静かな場所にあった。旧市街からは外れていたが、直通のトラムが走っていたため、街へ行くのに不便さは感じなかった。そのためか 日本人観光客も何組か宿泊していた。
今回のCJPS2016は 1日目がポスターセッション、2日目以降が口頭発表とエクスカーションで構成されており、約38件の発表があった。内容は 現象に対するモデリングや解の爆発問題など多岐に渡っていたものの、どの発表も興味をそそられるものばかりであった。ポスターセッションでは、会場にビールが用意されており、ビールを飲みながら研究について議論するという非常に贅沢な時間であった。今回私は、斜面を流れる非圧縮粘性流体について この線形化作用素がゼロ固有値を持たないためのレイノルズ数を傾斜角によってパラメター付けした結果(摂南大学 寺本惠昭先生との共同研究である)を紹介した。講演時間は25分であったが、英語講演は何回やっても慣れず また緊張していたため、思うように言葉が出てこなかった。発表後、チェコ工科大学のBenes先生をはじめ 何人かの先生とお話しさせて頂く中で、今後の研究テーマになり得るネタを仕入れることが出来、大変有意義だった。
ここでエクスカーションについても触れておこう。Czech-JapanおよびSlovak-Japanの研究会では大自然の中を散策するものが多く、私にとってはエクスカーションも楽しみの1つである。今回は、クラクフ旧市街とソルトマインに行ったが、ここではソルトマインについて書いておく。ソルトマインは、ポーランドのヴィエリチカにある岩塩採掘場のことで、その規模は地下約300メートル、全長300キロメートル以上にも及ぶ(インターネットで調べると見学出来るのは地下約64~130メートル、長さ約3.5キロメートルの区間らしい)。また1978年にユネスコの世界遺産にも登録されている。ソルトマインの見学ルートは観光用とマイナールートの2種類があり、我々は幸運にも両方のルートを見学することが出来た。坑内にはダンジョンRPGを彷彿とさせる世界が広がっており、坑道を経て辿り着いた先には 岩塩を運搬するための木製の機械(馬が動かす)がある部屋や地底湖があった。地下約100メートル地点にある聖キンガ聖堂は、細部の彫刻に至るまで全て 岩塩を削って作られており、その精巧さには只々圧倒されるばかりであった。ソルトマインの坑内には レセプション会場も設備されており、今回の懇親会はここで開催された。懇親会の途中、天井から降ってきた岩塩の塊が ある先生のビールジョッキの中に入ってしまった。その先生曰く、ビールの味が塩辛くなったそうであるが、これこそ岩塩坑内ならではの出来事であろう。
最後に、今回のセミナーでは多くの学生も参加しており、彼らと議論をする中でたくさんの刺激を受けることが出来た。
~次の研究集会ではどんなネタや出会いが待ち受けているのだろうか~
そんな期待を胸に秘めながら本稿を締めくくることにする。
本セミナーにお誘い下さり、講演の機会を与えて下さったRobert Straka さん(AGH科学技術大学)には、あらゆる場面で大変お世話になった。この場を借りて心より御礼申し上げたい。