学術会合報告

MI^2I(情報統合型物質・材料開発イニシアティブ)チュートリアルセミナー第1回開催報告

2016年12月18日

河西 純一

かさい じゅんいち

国立研究開発法人物質・材料研究機構

はじめに
2016年2月26日(金)、数学協働ワークショップを開催した。http://coop-math.ism.ac.jp/event/2015W12 物質・材料科学と数学という、これまでに距離のあった両分野にとって、相互理解は融合・協働に向けての第一歩となる。更なる歩み寄りの一手段として、数学分野から講師を招き、物質・材料分野の研究者に対する入門的セミナーのシリーズ化を開始した。ここでは、その第1回の概要と今後の予定について報告する。

MI^2I(エムアイスクエアアイ、情報統合型物質・材料開発イニシアティブ)チュートリアルセミナー
JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)」
https://jsiam.org/online_magazine/lab/3894/
では、数学協働プログラムと連携し、多面的かつ俯瞰的なワークショップを開催。
https://jsiam.org/online_magazine/report/4064/
「数学分野の基礎的な理解を幅広く深めたい。」という参加者の声に応え、入門コースとなるチュートリアルセミナーを企画した。ここではその初回の様子を振り返ってみる。(共催:JST。後援:統数研。協賛:北陸先端科学技術大学院大学)

数学協働プログラムを運営する統数研から、樋口和之所長・福水建次教授・吉田亮准教授にご登壇いただいた。樋口氏からは、「シミュレーションとデータ解析の融合計算の基礎」と題し、最初に「内挿/外挿」、「データ同化(計測データにモデルを当てはめること、図1)」など、50枚を超えるスライドをご紹介いただいた。「ベイズ統計の基礎」では、ベイズの定理に基づき、順解析を組み合わせることで逆解析ができることを理論的に示された。素人からすると、逆解析の説明式がすんなりと出てくることは驚くべきことであり、データ解析の発展に期待が膨らむ思いであった。福水・吉田両氏は、MI^2IにNIMS招聘研究員として参加されており、物質・材料科学と数学との協働の先駆者ともいえる。福水氏は「位相的データ解析の機械学習的⽅法とその物質科学への応⽤」との演題で、形状などの幾何学的な情報をデータから抽出する新しい方法論を紹介され、従来、分子構造の説明が難しいとされていたシリカガラスの液相/ガラス相の明確な分離ができることを示された(図2)。吉田氏は「ベイジアン・アプローチに基づく情報統合型物質・材料探索」として、無限に近い物質空間から2つの特性を同時に満たす分子構造を探索する事例を紹介された。これは、有機分子の骨格や構造をパラメータで整理し、特性値との関係から、新物質を同定した具体的な実践例であった(図3)。

図1.樋口氏講演スライドより
図2.福水氏講演スライドより
図3.吉田氏講演スライドより

物質・材料研究者の視点からは、数学の持つ可能性の大きさと、両者の融合・歩み寄りで実践的な事例の積み重ねが、新たな手法の展開や協業の実現につながることを学んだ。これらの先に、有望な新物質の発見を強く期待したい。

 

本チュートリアルセミナーは、一部数学協働プログラムからの資金援助を受け、ビデオ撮影・教材DVD編集(講義のスライド全ページもPDFファイルとして収録)を行った。教育目的での利用に関しては、申請書・誓約書を提出していただければ、無償で配布させていただくこととしている。また、企業等の利用に関しては、現状ではMI^2Iコンソーシアム会員への特典として、参加全機関に無償で定期的に配布する予定である。所定の手続き等は、拠点ホームページhttp://www.nims.go.jp/MII-I/からhttp://www.nims.go.jp/MII-I/event/h6g4rf00000001i2.htmlへアクセスをお願いします。

あとがき

MI^2Iチュートリアルセミナー第2回は、2016.7.25 「超基礎からのLASSO」として開催。第1回と同様、教材DVDを準備してあります。(詳しくは、http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial2016_2.html
第3回は、2016.10.27(場所:全日通霞が関ビル8F)に開催予定。「超基礎からのベイズ最適化(仮題)」として、インフォマティクスならではの効率的な材料開発の手法を解説いただく予定です。
第4回は2017.1頃、第5回以降は、2017(H29)年度以降に継続予定です。物質・材料科学との連携にご興味をお持ちの読者からは、チュートリアルセミナーでの講演のご提案を期待いたします。また、数学協働プログラムWS(報告書URL:http://coop-math.ism.ac.jp/report/show/2015W12)のような俯瞰的な情報交流も定期的(頻度は多くなくてよいが)に必要であり、WS用の話題提供のご提案も以下の窓口よりお受けいたします。

窓口:CMI^2運営室・拠点マネージャー(e-mail)=mii-i_AT_ml.nims.go.jp