学術会合報告
『数学協働プログラムワークショップ:MI^2(情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開』開催報告
2016年09月16日
河西 純一
かさい じゅんいち
国立研究開発法人物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点
はじめに
2016年2月26日(金)科学技術振興機構(JST)東京本部本館B1ホールで開催した表題のワークショップ(WS)では、合計12名が登壇した。多方面からの視点を交えた講演や議論を通じ、物質・材料科学と数学との協働を加速するきっかけとして、重要な意見交換が行われた。本稿では、その概要とアンケート結果から見える課題を報告する。また、特に数学分野から物質・材料分野への挑戦者への門戸となる窓口情報を最後に掲載する。
MI^2(エムアイスクエア、情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開WS
日本の物質・材料研究の中核機関と位置づけられる物質・材料研究機構(NIMS)に、情報統合型物質・材料研究拠点(CMI^2)が組織され、JSTイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)」を運営開始した。(2015年7月1日)。
JSTイノベーションハブ構築支援事業=http://www.jst.go.jp/ihub/index.html
MI^2I-HP=http://www.nims.go.jp/MII-I/
NIMS-CMI^2-HP=http://www.nims.go.jp/research/MII-I/index.html
事業概要は、本誌前号に掲載された山下智 『情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI^2I)の紹介』を参照:https://jsiam.org/online_magazine/lab/3894/
数学協働プログラムを運営する統計数理研究所(統数研)からは、MI^2Iにおけるデータ科学研究開発を担う中核メンバーがNIMS招聘研究員として参加中、しかも統数研は要素技術の受託研究開発機関でもある。統数研・NIMSの良好な連携関係を基盤に、数学協働WSを開催した。共催は、JST。後援、統数研。協賛、北陸先端科学技術大学院大学。協力、JSTさきがけ「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズ・インフォマティクスのための基盤技術の構築」。
プログラム=http://coop-math.ism.ac.jp/event/2015W12
報告書(講演資料PDF版を収録)=http://coop-math.ism.ac.jp/report/show/2015W12
講演内容や主催者側の視点でのまとめは上記報告書を参照していただくとして、アンケート調査結果を元に、新たな異分野連携を推進する裏方から見た現状と課題をここでは述べていく。
WS参加者(主催者は除く)の所属、専門分野、及び過半数を占める企業からの受講者の業種についての集計結果を下図に示す。
MI^2が導入期にあるため、「学」から「産」へ、分野としては「数学・数理科学」から「材料科学」への話題提供が多い。MI^2の最新情報や専門家の取組み動向を知りたいとのニーズを持つ「産」側の熱心な姿勢がうかがえる。
「産」の中でも、化学業界の比率が高く、先行するケモインフォマティクスの浸透が積極的な参加につながっていると解釈できる。逆に、電機・機械・エネルギー・自動車といった出口側の「産」は少数派であり、材料分野がMI^2の定着と活用を先導しながら、出口への展開を推し進めていく必要性を強く感じる。
アンケートの要望には、パーシステントホモロジー、機械学習・ディープラーニング(ニューラルネットワーク)・AI、ビッグデータ処理、スパース推定、データ同化などの数学分野の基礎的な理解を幅広く高めたいとの意見と同時に、材料開発への事例紹介や、材料開発に適した手法の習得など、開発現場に直結するような実践的な話題提供を望む声も多かった。異分野の相互理解には、時間をかけて、基礎的知識の幅広い浸透を地道に進めていくことが必須であろう。相互理解の上に人と人との連携の輪を太く大きくしていくこと、併せて出口がハッとする成功例の発信・共有化が特に重要ではないかと感じた。
あとがき
数学分野の基礎的な理解を幅広く深めたいとの意見に対応し、入門コースとなるチュートリアルセミナーへの展開を開始した。一回のセミナーには、材料開発への事例紹介も必ず盛り込むよう、工夫をしていく所存である。
MI^2Iチュートリアルセミナー
(第1回)2016.3.29 「物質・材料分野向け情報理論・数学の基本的な考え方、実際の事例紹介」
(第2回)2016.7.25 「超基礎からのLASSO」
(第3回)2016.10頃、
(第4回)2017.1頃、
(第5回)以降は、2017(H29)年度以降に継続予定。
話題を提供していただく数学・数理科学分野の講師は、統数研の研究者や、MI^2I参加研究者に頼っているのが現状である。MI^2I事業では、H29年度に大幅な体制の見直しを行う予定としている。もちろん、数学・数理科学からの新規参入者は大歓迎であるが、いきなりの参入は敷居が高いかもしれない。MI^2I拠点では、論点を絞り、誰でも参加できる情報統合型研究交流会・一般公開シリーズを1回/月以上のペースで開催している。物質・材料科学と数学協働の観点から、MI^2Iの活動を様子見する気軽な機会も必要であろう。双方の連携強化に向け、門戸となりうる交流会の問合せ先を示して、数学連携による新展開WSの報告の結びとする。
窓口:CMI^2運営室・拠点マネージャー(e-mail)=mii-i_AT_ml.nims.go.jp