学術会合報告

第44回数値解析シンポジウム(NAS2015)報告

2015年11月02日

小山 大介

こやま だいすけ

電気通信大学大学院 情報・通信工学専攻

2015年6月8日から10日の3日間,山梨県甲州市「ぶどうの丘」にて,第44回数値解析シンポジウム(NAS2015)が行われた.参加者は84名(うち13名は特別企画講演のみの参加者),講演件数は,一般講演30件,ポスター講演5件,特別講演1件,企画特別講演1件であった.

会場であるぶどうの丘は,小高い丘の上にある天然温泉,ワインカーブを兼ね備えた豊かな自然に囲まれた明るい雰囲気の宿泊施設であった.露天風呂や展望レストランからは,ぶどう畑が広がる甲府盆地や盆地を囲む御坂山塊・南アルプスを一望することができた.施設内ではワインを存分に楽しむことができ,周辺では,ほうとう,さくらんぼをはじめとする数々の甲州の美食を満喫することができた.

シンポジウムでは,微分方程式の数値解析,数値線形代数,画像圧縮,数式処理,数値積分などの講演が行われた.その中でも若手研究者のエネルギッシュな研究報告が多くあったことが非常に頼もしく思えた.

大取りの小林健太先生の講演では,先生が発見された「n次元単体の外接半径の再帰公式」が紹介された.先生がかつて発見された,三角形上の1次補間関数の三角形の外接円半径を用いた誤差評価式と同様に美しさを感じ,大変感銘を受けた.

今回のシンポジウムの目玉である特別企画講演は,奥野田葡萄酒醸造株式会社社長・中村雅量氏(写真1)と富士通株式会社の清宮悠氏,伊東和彦氏により,「自然と人とICTによるおいしいワイン造り」というタイトルでなされ,その後にパネルディスカッションが行われた(写真2).ぶどう畑に設置された温度,湿度,雨滴センサーから得られるデータから,ある数理モデルによって,農薬散布や収穫時期を予想し,農薬の散布量を少なくする「優しさあふれるぶどう栽培」を目指しておられるとのことであった.このように数理を活用した新技術の開発を行っている民間企業の方々との交流の場を設けることは,数値解析という研究分野を社会に発信するという観点からも非常に意義深く,今後も継続していけると良いのではないかと感じた.

写真1:奥野田葡萄酒醸造株式会社社長 中村雅量氏
写真2:パネルディスカッション風景

今回の幹事大学は電気通信大学であったが,次回の幹事大学をこれまでのように懇親会の席で発表することができなかった(原稿執筆時点でも次回幹事大学は未定である).このような状況を踏まえ,最終日には,今後の数値解析シンポジウムの運営について運営委員会の設置等の提案がなされ,参加者の同意が得られた.なお,運営委員会は,幹事大学の選定やその大学(実行委員会)への運営に関するノウハウを提供し,開催会場の選定,HP立ち上げ,予稿集作成,会費徴収方法,予算編成などについて助言と支援をする.

末筆ながら,実行委員の一人として,シンポジウムに参加された方々,「ぶどうの丘」の関係の方々,および,受付・会場係の電気通信大学 大学院生諸君の協力に心より感謝の意を表する.

伝統ある数値解析シンポジウムの継続とさらなる発展を願って報告を終えることとする.