学術会合報告
ワークショップ「機械学習における情報幾何学的視点」開催報告
2015年03月14日
池田 思朗
いけだ しろう
統計数理研究所
2014年12月3日から5日までの3日間,埼玉県和光市の理化学研究所において「機械学習における情報幾何学的視点」と題するワークショップを開催した.ワークショップの主催は数学協働プログラム(2015年1月,JSIAM Online Magazine 「ラボラトリーズ」で伊藤聡(統数研)から紹介があった),統計数理研究所統計的機械学習センター,そして理化学研究所であった.運営は私と福水健次(統数研)が行なった.
甘利をはじめ,日本人がその発展に大きく貢献してきた情報幾何学[1]は,確率分布の空間の構造を微分幾何学の方法によって理解することに特徴がある.フィッシャー情報量に基づくリーマン幾何の構造,そして双対なふたつの接続が重要な役割を果たす.こうした枠組によって,統計学,制御理論,情報理論,信号処理,最適化理論など多岐にわたる分野で問題の理解を深め,数理的解析と改善法の研究に影響を与えてきた.
一方,機械学習とは,最近の質と量が変化したデータに対応するため必要となる理論と具体的方法の総称といえる.関連するのは統計学,計算機科学,最適化理論などの応用数理の分野だが,これらは情報幾何学がこれまで貢献してきた分野でもある.ワークショップは,情報幾何学と機械学習の最近の話題を俯瞰し,情報幾何学から機械学習への貢献について考えようと企画したものである.
今回,海外からは4名,国内からは10名の講演者を招待した.会議の冒頭では伊藤氏(統数研)から数学協働プログラムの説明を受け,その後に全て英語で,各1時間の講演が続いた.内容は Deep learning,Tsallis 統計,内点法,情報学,と幅広く,なかでも福水氏(統数研)によるカーネル法の結果やGirolami氏(Warwick大)によるリーマン幾何を考慮したMCMCの方法などはまさに機械学習における情報幾何学視点の重要性を示したものであった.ワークショップ全体として,充実した内容であったと思う.参加者は企業,大学関係者を含め,75名ほどであった.
今回のワークショップは講演者の旅費,謝金,そして宣伝用のポスターの印刷代などを数学協働プログラムと理化学研究所からの予算で支払い,会議自体は参加費無料で行った.数学協働プログラムはこうした比較的小規模の会議を行うのにちょうどよい規模の予算であり,有意義な企画になったと感じている.
情報幾何学については平成25年度の数学協働ワークショップにおいて「統計多様体の幾何学の新展開」(運営は松添博(名工大))が行なわれている.今回参加した Frank Nielsen らは 2015年 (GSI2015) に,その後には Nihat Ay が関連する国際会議を開催する予定である.情報幾何学に興味があれば読者の皆様にも参加を考えて頂きたい.
[1]S. Amari, Differential Geometrical Methods in Statistics, Springer Lecture Notes in Statistics, 28, 1985