学術会合報告
日本応用数理学会2014年度年会開催報告
2015年05月02日
土谷 隆,中務 祐治
つちや たかし, なかつかさ ゆうじ
政策研究大学院大学, 東京大学大学院情報理工学系研究科
2014年度日本応用数理学会年会は 2014年9月3日から9月5日まで政策研究大学院大学で行われた.以下,企画運営に関わった実行委員会メンバーとして年会について紹介したい.幸い天候にも比較的恵まれ,ここ数年では一番多い500名強の参加を得ることができたのは嬉しいことであった.本年会では,3件の特別講演, 35件の研究部会OS,2件の会員主催OS,17件の一般講演,46件のポスター講演に加え,パネルディスカッション「ものづくり企業と応用数理」,統計数理研究所との共同企画による「数理科学の物質・材料科学への応用」(文部科学省数学協働プログラム),台湾 SIAM との合同特別セッションが,特別に企画され,実施された.
年会の核となる口頭発表やポスター発表のセッションでは,例年と同様多くの発表が行われ活発な議論が繰り広げられた.例えば線形計算、行列固有値OSでは,「古典的」ともいえる行列分解の誤差解析やクリロフ部分空間法による線形方程式や固有値計算の解法についての解析,数値実験の報告があったほか,テンソル和の特異値計算や固有値による有理関数の根計算,最適化方面からの特異値計算アプローチの講演,またGPUやスーパーコンピュータを用いた大規模問題の通信削減と並列化による高速化についての講演などもあり,行列計算における研究の方向性の多様化という傾向が実感された.行列計算に限らず,今後も応用数理内外での分野を跨ぐ統一的な視点からの貢献が重要な進展の鍵となると思われる.
年会のもう一つの核となるのが,特別講演やポスターセッション,懇親会などの特別イベントである.以下,これらについて報告する.大会初日9月3日午後には政策研究大学院大学森地茂教授による特別講演「社会資本の整備・管理分野における数理モデルの役割」とポスターセッションが行われた.
さまざまな意味で高齢化が進む日本にとって,インフラの老朽化は避けて通れない課題である.森地先生のご講演は,種々の統計を駆使し,日本社会の変容,アメリカとの比較等の論点を交えた,この問題の重要性が説得力を持って伝わってくるものであった.参加者は大いに触発されたことと思う.森地先生ご自身の手になる講演の紹介が近く発行される応用数理25巻2号に掲載される予定なので,ぜひご一読いただきたい.
引き続き開催されたポスターセッションでは46件のポスター講演が実施された.街なかの雑踏を思わせるような混雑の中,各ポスターを前に熱気に満ちた討論が繰り広げられた.ポスター賞の投票も行われ,学会賞である「優秀ポスター賞」に新庄雅斗氏(京都大学)らによる「生物の捕食関係に内在するフィボナッチ数列について」が,年会実行委員会が表彰する「学生が選ぶポスター賞」に石田祥子氏(明治大学)らによる「数理折紙の工学応用:折り畳み構造の双安定性を利用した防振機構」,そして佐々木多希子氏らによる「非線形シュレディンガー方程式の差分解の爆発について」が選ばれた.なお,寛いだ雰囲気で議論ができるように飲み物と簡単なお菓子を用意した.手前味噌になるがこれは好評だったようである.
大会2日目,9月4日午後には,小島政和東京工業大学名誉教授, JST CREST 研究員による特別講演「大域的最適化をめぐって」と 大島利雄城西大学教授による特別講演「数式処理と数学」があり,そのあと表彰式に引き続き,パネルディスカッション「ものづくり企業と応用数理」が開催された.
小島先生のご講演では,多項式最適化や共正定値計画等難しい非凸最適化問題の大域的最適化について,半正定値計画法を活用した最新の研究成果をご披露いただいた.最適化に関する卓越した業績により,日本人はじめて SIAM のフェローに就任された先生のまさに面目躍如といったところである.
大島先生のご講演は,幼少の頃からの電子回路,黎明期のパソコンとのかかわりから説き起こされて,純粋数学のご研究に数式処理やコンピュータがどのようにかかわってきたか,というものであった.数学の研究に応用数理・コンピュータ科学が本格的に活用されており,先生のご興味とご研究の幅の広さを感じさせる講演であった.
両先生のご講演については,最近出版された応用数理25巻1号にご自身の手になる講演内容の紹介が掲載されているのでぜひそちらをご一読いただきたい.
パネルディスカッション「ものづくり企業と応用数理」では,高田章会長(旭硝子),櫻井鉄也氏(筑波大学), 横張孝志氏(日立製作所), 今関修氏(鹿島),田邊隆人氏(NTTデータ数理システム)をパネラーとして迎え,高橋大輔氏(早稲田大学)の司会の下,熱い議論が繰り広げられ,プログラムで長めに時間をとった上さらに延長戦に入ったにもかかわらず議論が尽きなかった.そして,多くの参加者がそのままホールの向かいの会場で開催される懇親会に移動した.
懇親会も参加者110名を超え,賑々しくも和やかな雰囲気の内に進行し,その中で台湾 SIAM から高田会長への贈り物の贈呈,学会ポスター賞,学生が選ぶポスター賞の表彰等が行われた.参加者にとって旧交を温めたり,新しい繋がりを作る良い機会となってくれたのではないかと思う.
以上が,年会自身の報告とあるが,最後に,年会運営方法の大きな変化について触れておこう.今回より,学会のサーバー上で年会運営用のシステムが稼働し,統一した形で参加申込み,講演申し込みが web 上で行えるようになり,プログラム作成等も大幅に自動化された.さらに,参加費や懇親会費の支払いが,銀行振込みだけではなく,クレジット払いやコンビニ払いでできるようになった.これらにより,実行委員会や事務局の負担も大きく軽減された.このシステムについては,荻田武史理事(東京女子大)を中心とする学会ネットワーク委員会の尽力,特に,実際のシステム構築作業に携わられた山中 脩也氏のお力が大きい.ボランタリーな形で貴重な研究時間を割いて使いやすいシステムを作って下さった両氏,そして,そこに至るまでのレールを引いて下さった,降旗大介氏(大阪大学)をはじめとする歴代ネットワーク委員会の皆様に改めて深く感謝するものである.