学術会合報告

RIMS共同研究「力学系の理論と諸分野への応用」参加報告

2022年10月21日

石川 勲

いしかわ いさお

愛媛大学データサイエンスセンター

2022年6月6日から10日にかけてRIMS共同研究(公開型)「力学系の理論と諸分野への応用」が京都大学数理解析研究所の420教室で開催されました。力学系は数理科学の分野に現れ、各分野で様々な手法・視点で研究されています。この研究集会では諸分野から力学系にまつわる研究をしている研究者が集まり、研究発表と議論を通して情報共有をしていくことでお互いの研究の更なる進展を目指すものです。15年以上に渡って毎年開催されており、毎回非常に活発な研究交流がなされています。今回も大学の学生や教員、そして、企業研究者など様々な背景を持った方による発表があり、一般講演(50分トーク)17件,ショートコミュニケーション(15分トーク)9件の合計26件の多種多様な研究成果を聞くことができました。

近年の新型コロナウイルスの世界的大流行に伴い、今年は現地参加者の人数を絞った形でオンラインとのハイブリッド開催となりました。参加人数は対面参加とオンライン参加合わせて100人強にのぼったようです。去年と一昨年はオンラインでの開催でしたが、ワクチンの普及などや新型コロナウイルスに対する理解の進展もあり、研究集会なども限定的ながらも対面開催が可能になったのは喜ばしい限りです。新型コロナウイルスの変異株などが次々と現れ、未だに流行の収束とは言い難い状況ではありますが、対面だからこそできる休憩時間での瞬発的な議論やアイデアの共有などが本研究集会でも多くあったのではないかと思います。私自身も自分の講演の後にその道の教授の方に非常に有用かつ興味深いコメントを多く頂き、色々とお話をすることができました。また、昼休憩時に食事などをしながら多くの人と話をすることができ、これも非常に有益な時間であったと思います。オンラインだとこのようなことは起き得なかったと思います。ただ、オンライン研究集会にも捨て難いメリットが多くあります。これからも感染対策を徹底しながらのハイブリッド型研究集会が多く開催されることを願っています。

今回は多くの講演を聞くことができましたが、その中で、私自身が印象に残ったものを紹介したいと思います。1つは日本電信電話 ネットワークサービスシステム研究所に勤めておられる橋本悠香さんによる「Koopman作用素を用いた相互作用の推定」です。ここでは複数の力学系が相互作用によってお互いに影響を与えながら動くモデルを考察します。この種の力学系は相互作用の全体として秩序だった挙動を示すが多々あること知られており、例えば、複数のメトロノームを適当に鳴らし始めても最終的には同じリズムを刻み始める、所謂、共鳴現象などは有名です。このような現象は位相モデルなどを導入することで理解されます。橋本さんの研究では、相互作用が未知の複数の力学系が与えられている時、位相モデルに基づき、データ駆動的な手法で力学系の相互作用を復元する問題を考えます。この研究では適当な関数空間を設定し、その関数空間への力学系への引き戻しによって力学系を線形作用素と捉え直します。この線形作用素をKoopman作用素と呼びます。更に、このKoopman作用素に関するmultiparameter固有値問題と呼ばれる固有値問題の一般化を考察することで、力学系間の相互作用を復元します。実際にはデータ駆動的な手法を提示しており、未知の力学系の軌道データが与えられているところからスタートします。データからKoopman作用素を近似し、そこからmultiparameter固有値問題を数値的に解くことで相互作用を復元していきます。multiparameter固有値問題はそもそも常に解があるかどうかも状況によりけりのようで、シンプルなモデルで考察する限りでは数値的に上手くいっているようですが、理論的には解決すべき問題がまだ多く残っていると言っておられました。橋本さんはC*環上のKoopman作用素の研究もやっておられますが、それとも深い関わりがありそうに思いました。近年はデータ駆動的な手法というものが非常にホットな話題であり、橋本さんの考えられるような一般的な理論的枠組みの構築は非常に重要な仕事であると思います。今後が楽しみなとても興味深い講演でした。

最後になりますが、本研究集会の世話人をやって下さった岡山大学の大林一平先生には感謝を述べたいと思います。ハイブリッド開催のための諸準備は非常に大変であったのではないかと想像します。来年も再び大林先生が世話人となってこの研究集会を開催してくださるようです。力学系を研究する方なら誰でも参加できるようですので、多くの方に参加していただければと思っています。コロナ禍や国際情勢不安などで先の読めない昨今ではありますが、来年以降も無事開催されることを願っています。