学術会合報告
Householder Award受賞にあたって
2014年09月13日
中務佑治
なかつかさゆうじ
東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻
この度6月に行われたHouseholder Symposium XIXにてHouseholder Awardという名誉な賞をいただいたため,受賞のいきさつや受賞講演の様子などをこの場を借りて紹介させていただくことにする.Householder Awardは過去3年の間に線形計算を核とする博士論文を英語で書いた者に資格があり,submissionには指導教官と少なくとももう一つの推薦状が必要である.
授賞式はバンケットの後に行われ,chairのVolker Mehrmann教授が賞の歴史や今回の審査の様子についてプレゼンテーションを行った.19人の中から6人,4人と候補を絞り,後で聞いたのだが4人の候補からの最終決定はcommittee membersが学会前日のreception時に集まって話し合ったらしい.賞金が少し受賞者には与えられるが,これは全額が前のHouseholder Symposiumで参加者から受け取った募金で成り立っている.授賞式の写真などが少し以下に掲載されている:http://sites.uclouvain.be/HHXIX/Misc.html
筆者が受賞を知らされたのは会場に着いてからであり(これは伝統らしい),Mehrmann教授に呼び止められて知らされた.大変光栄だったのはもちろんであるが,正直混乱してしまった.というのは,受賞者は博士論文の内容について学会中に講演をするのだが,準備をしていなかったのである.既にplenary speakerに選んでいただいていたため,それに精力を込めて準備しており,もう一つ発表するスライドも心の準備もなく,学会自体も早朝から深夜まで行われ,聞きたい発表ばかりなので本当に時間がなかった.更に,plenary talkでの内容は博士論文の核となるものを拡張したものであったため,今更それについて話すことには価値がない.仕方なくexcursionを欠席して博士論文から最近の結果も交える内容でスライドを書いたのだが,受賞講演前日の夕食でHigham教授に講演内容について聞かれ,概要を説明すると「博士論文に書いていない内容は賞の趣旨から避けたほうがいい」と言われ,やや絶望感を覚えたがその日のダンスパーティーを欠席して(朝3時まで大いに盛り上がったと聞いて少し羨ましく思った)内容を大きく書き直した.博士論文はアルゴリズムと固有値摂動論の2部構成だが,雑多な内容の発表は避けたかったので,摂動論がアルゴリズム設計に有用であるという主張を軸とする発表を試みた.それなりにまとまったように思うが,こんな急な発表は今後ないであろうから正直ほっとしている.
今回の受賞について,3年前の仕事に与えられたものということもあり,自分の中では何も変わっていないのだが,授賞式後は参加者の多くに「congratulations!」と声をかけてもらい握手して,コミュニティーから見る目が変わるのだと感じた.だが,達成感としては受賞講演よりも自分でも手応えがあったplenary talkの後同じ位の数の人に話しかけてもらい,何人かと内容について議論できたことのほうが大きかったかもしれない.こういった激励はモチベーションと共に新しい人脈の元ともなり,有難いものである.今回身に余る光栄であったが,賞の名に恥じないよう,今後精進する所存である.