学術会合報告
Householder Symposium XIX
2014年07月20日
相島 健助,中務 佑治
あいしま けんすけ,なかつかさ ゆうじ
東京大学大学院情報理工学系研究科
2014年6月8日から13日にかけて,ベルギーのスパにてHouseholder Symposium XIXが開催された.本会議は3年に1度開催される線形計算の会議であり,参加して分かったのだが,今回の発表の採択率は(非公式な数字ではあるが)約5割と決して高くはない.それだけに国際的に著名な線形計算研究者がほぼ全員集まる重要な会議であり,ホームページ(http://sites.uclouvain.be/HHXIX/index.html)の参加者リストを見ればその豪華さは一目で分かる.筆者の相島は初めて,中務は2回目の参加である.
講演について述べると,plenary talkとparallel session,ポスター発表の3種類がある.線形計算の研究と言うと線形方程式と固有値問題の解法が主な基盤であり,実際それに対する講演がかなり多かったが,plenary talkに関しては,物理現象や制御理論,統計解析,関数近似等を意識する立ち位置での研究成果が多かったように思う.おそらくこのコミュニティー全体として他分野へ研究の幅を広げていきたいという意図があるのだろう.筆者らの発表についても少し紹介させてもらうと,相島はポスター発表,中務はplenary talkを行った.なお本会議は過去3年間の最優秀博士論文に対するHouseholder Award の発表および表彰式もかねており,19件の投稿があった中で,中務が受賞となり大変名誉であった(Nicolas Gillisと共同受賞).
ホームページ等にはおそらく掲載されないであろう内容について少し述べると,ポスター発表については,参加者全員の前で1枚のスライドを使って1分で自分の発表内容をアピールするというイベントがあり,短い時間の中で個性が出ていて面白かった.ポスターにも賞があり,これはAndreas Frommer教授,Tyrone Reeds氏を大賞として他数名が受賞した.なお最終日のplenary talkのキャンセルの埋め合わせに,Beresford Parlett教授が非対称固有値問題についての講演を行った.
本会議の特徴は,何と言っても,著名な研究者が一堂に会してみなが仲良くなることを目的に運営されている点である.上述のようなポスター発表の1分間スピーチでの盛り上がりや,講演の埋め合わせのような臨機応変な対応が可能なのも,参加者全員に一体感があるからだろう.参加者はみな会場のホテルに宿泊し,朝昼晩とホテルのレストランで雑談を楽しみながら食事をとる.大御所の先生から若手のホープまで,こんなに様々な研究者と接しやすい環境は他にない.特にディナーはトランプで席を決めていろんな人と交流できるような仕組みにされていた.このコミュニティーは他の分野に比べ未発表や進行中の研究でも議論や紹介をおおっぴらにするフレンドリーなものであり,それも見て取れる学会であった.そしてバンケットではNicholas Higham教授の大変ユーモアに富んだスピーチが披露された.ほかにexcursionとダンスパーティーも恒例となっており,大きく盛り上がっていた.
発表の話に戻ると,冒頭で述べた通りの厳しい審査を通過した講演ばかりなので,講演の質は非常に高く空き時間には研究について込み入った話をすることもでき大変充実していた.雑談時には日本の数名の研究者について尋ねられることも多く嬉しく思った.日本からも積極的にこの会議に発表を申し込み,研究のアピールおよび人脈づくりができるとよいだろう.しかしながら,発表の採択率は高くなく,これに関しては実行委員の方たちも悩んでいて,今後のHouseholder Symposiumのあり方を問う一幕もあった.個人的な意見で恐縮だが,大事なのは,この会議に参加している研究者と何らかの形で積極的に研究に関してコミュニケーションをとることで,これにより発表が受理されるようになると思う.もちろん,今回,我々若輩者の発表が採択されたのは我々自身の力だけでなく,日本の線形計算に携わる先生方の様々な活動が大きな力を与えてくれたことは間違いなく,それについては非常に感謝している.読者の皆様が日本のコミュニティーの一人として,次回以降この会議にどう関わっていくか,少しでも考えていただけたら幸いである.