学術会合報告
SIAM Conference on Parallel Processing for Scientific Computing (PP14)
2014年06月15日
二村 保徳,矢野 貴大
ふたむら やすのり,やの たかひろ
筑波大学大学院 システム情報工学研究科
2014年2月18日から2月21日にかけて米国オレゴン州ポートランドのMarriott Portland Downdown WaterfrontにおいてSIAMの会議Parallel Processing for Scientific Computing(PP14)が開催された. 今回訪れたポートランドは,真冬の2月でも比較的温暖であり,碁盤の目状に整備されたダウンタウンは清潔で落ち着いた雰囲気を醸し出していた.また,ダウンタウンでは4路線からなるトラムが運行しており,そのうちの一つの路線がダウンタウンと空港をつないでいるため,空港から会場までのアクセスが良かった.筆者(二村)はこれまで米国に滞在した際,自動車がないと非常に不便に感じた経験が何度かあることから,このような公共交通機関が発達している街は素晴らしいと感じた.会場近くにはウィラメット川という大きな河川があり,その川に架かる橋や周囲の公園の緑が街に美しい景観を与えていた. 会場のホテルの至近に日本風ラーメン屋があり,ラーメン屋巡りを趣味にされている同行者の方に連れられ入店した.その店のラーメンにはHokkaido, Kobe, Kyoto, Kyushuといった日本の都市名が付けられており,筆者(二村)は京コンピュータの所在地であるKobeを注文したが,チーズとトマト風味のスープで,まずまずの味だった.なお,Kyotoはハラペーニョが乗っている変わり種ラーメンであったようである. 会議の内容に移るが,PP14では7件の招待講演,80件のミニシンポジウム,16件のcontributed presentationのセッションが開かれた.PP14で行われた講演の分野は非常に多岐にわたったが,今回ミニシンポジウムToward Resilient Application for Extreme Scale Systemが特に印象的であった.このミニシンポジウムは4件ものセッションから成り,本会議で最大のものとなっていた.また,その規模の大きさから関係者からはメガシンポジウムと呼ばれていた.エクサスケールの大規模計算では計算資源の増加により実行中の故障(failure)が許容できない頻度で発生することが予測されており,このミニシンポジウムのセッションのみならず,その他のセッションでもアルゴリズムに基づく耐障害性:Algorithm-based fault tolerance(ABFT)という言葉をキーワードに用いた講演が散見された.特に筆者(矢野)はSelf-Stabilizing Iterative Solversという講演に興味を持った.この講演では,最急降下法や共役勾配法で線形方程式を解く際の反復過程における各変数での計算で予期せぬ値の変化が生じた場合の解法の挙動について解析されていた.このミニシンポジウムの講演の聴講を通じて,今後エクサスケールの大規模計算を行う上で解決すべき課題が山積されていると感じた. また,今回のPPではアクセラレータとしてGPUだけでなくIntel® Xeon Phiを用いた研究発表もいくつか見受けられ,アクセラレータによる線形計算研究のトレンドの変化を感じた.筆者らは裏のセッションに出ていたため聴講することができなかったが,Application Experiences with Intel® Xeon Phi Coprocessorというミニシンポジウムがあり,プラズマシミュレーション・格子量子色力学計算などのアプリケーションでのXeon Phiへのポーティングについて議論されたようである. 次回のSIAM PPではどのようなトピックが話題になっているであろうか.今後もエクサスケール計算の時代に向けた次世代アルゴリズム・ソフトウェア技術の研究動向を注視していきたい.