学術会合報告
RIMS 研究集会「応用数理と計算科学における理論と応用の融合」
2014年02月11日
降籏 大介,谷口 隆晴
ふりはた だいすけ, やぐち たかはる
大阪大学サイバーメディアセンター, 神戸大学システム情報学研究科計算科学専攻
2013年10月15日から10月17日に「応用数理と計算科学における理論と応用の融合」なる数値解析系の研究集会が開催された. これは1969年の高橋秀俊東京大学名誉教授が代表者の研究集会「科学計算基本ライブラリーのアルゴリズムの研究」以来続く伝統ある研究集会で毎年秋頃に開催される. 今年は降旗(阪大)が代表者で「10年後に影響を与えるかもしれない講演」をテーマとして開催され 23の講演があった. そこで, 特にこのテーマを強く意識した講演をいくつか紹介する.
初日は線形計算に関する講演が主で, 特に並列計算機の発展をにらむ次世代アルゴリズム関連の話題が多かった. 山本(電通大)によりエクサフロップス時代に向けた線形計算アルゴリズムの研究動向のサーベイ講演がありエクサフロップスマシンのハードウェア特性が紹介されるとともに, 特に線形計算アルゴリズムの課題や最新動向などが論じられた. キーワードには高い並列性や強スケーリングの実現, データ移動の回数・量の削減, 耐故障性といったものが挙がった.他のものとしては,特に高い並列性を有する大規模非線形固有値問題の並列解法として池上(産総研)がブロック櫻井・杉浦法を紹介し,また,中務(東大)が固有値問題・特異値問題に対する通信量の低いアルゴリズムを具体的に紹介した.
2日目は広範にわたった講演が行われた. 鈴木(静岡理工科大)は, 自身が研究してきた常微分方程式の数値解法を利用した非線形方程式の数値解法に関するサーベイを行った. 村主(京大)の講演は偏微分方程式の数値解法のための自動チューニング機構についてである. チューニングには自主開発したParaisoなる, 関数型言語を用いたコードジェネレータを用いており, 自動生成された多数のプログラムコードから実測情報や遺伝的アルゴリズムなどを組み合わせて高速なプログラムを抽出する. 実際, Navier-Stokes方程式に対し高速なプログラムの生成に成功している. また, 今西(神戸製鋼)によりマルチボディダイナミクスに関する研究が隆盛である旨報告された. マルチボディダイナミクスは自動車・ロボットなどといった機械システムにおける複雑な機構の解析を行うもので「応用数理」23巻2号巻頭言「数学イノベーションへの期待」の中で言及されており, 今回のテーマと合致していることから研究集会の幹事からご講演を依頼した. 松江(統数研)のパーシステントホモロジーを用いたガラスの特徴付けに関する講演も, 新しい数学の応用を切り開くもので今後の発展が期待される.
3日目は有限要素法に関する話題が中心であった. 近年, 小林(一橋大)らは有限要素法の誤差評価に関する外接半径条件という画期的な結果を与えており, 本研究集会ではこの結果や3次元有限要素法の誤差評価に関する展望などについての報告がなされた. また, 3日目は2日目までに比べ, 特に学生の発表が多かったように思われる. テーマのためか学生の講演申し込みは少なかったが, その一方で伊藤(東大M1), 内海(早大M2)のような修士課程の学生の発表があったのは印象的である. その他の学生も含め, 彼らの10年後に何か良い影響が残れば幸いである.
2日目の夜は, 京都大学の楽友会舘で懇親会が行われた. この建物は京都大学創立25周年を記念して建てられた, 歴史ある建物である. 懇親会では「来年は是非, 紅葉の頃に」というリクエストも出ていた. 次回, そのような時期に引き続き同様の研究集会が開催されることを期待する.